大規模小売店の参入・退出と中心市街地の再生

執筆者 松浦寿幸  (研究スタッフ) /元橋 一之  (ファカルティフェロー/東京大学先端科学技術研究センター)
発行日/NO. 2006年12月  06-J-051
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備考 この論文は2006年7月に発表された「中・大規模店の参入・退出と中心市街地の活性化に関する計量分析」を改訂したものです。

概要

本稿は、商業統計調査等のメッシュデータを用いて大規模店の参入・退出や公共施設の有無が中小小売店の売上の与える影響について定量的な分析を行った。その結果、大規模店の参入(退出)は、当該地域の「商業の活性化」に対して正(負)の影響があるが、この効果は大規模小売店の参入撤退に伴う中小小売店の参入撤退によるところが大きく、1997年以前から操業している中小小売店(既存店)の販売変化率に対する影響は限定的であった。さらに、モータリゼーションの進展している都市とそうでない都市にサンプルを分割して分析したところ、世帯あたり乗用車保有台数が低い都市では、大規模店参入が既存店の販売変化率にプラスの影響を及ぼすことが示されたが、同指標が高い都市では、そのような効果は見られなかった。同様に、公共施設の存在も全店舗の販売変化率と正の相関関係があるものの、既存店の販売額変化率に限定すると、世帯あたり乗用車保有台数が低い都市では、公共施設の存在と販売変化率の間に正の相関関係があることが示されたが、世 帯あたり乗用車保有台数が高い都市では、そ の関係は弱いものであった。これらの結果から、モータリゼーションが進展している地域では、中心市街地に大規模店が新規に立地したり公共施設がつくられたりしても、市街地中心部の交通渋滞や駐車場不足の問題があるため、郊外に流出した顧客を取り戻すことはきわめて困難であると予想される。現在、中心市街地活性化のために様々な施策が検討されているが、それぞれの都市環境に即した施策を講じる必要があることを今回の分析結果は示していると考えられる。