「トップランナー方式」による省エネルギー法家電機器効率基準規制の費用便益分析と定量的政策評価について

執筆者 戒能一成  (研究員)
発行日/NO. 2006年4月  06-J-025
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概要

経済産業省においては、エネルギー・環境問題への対応方策の1つとして、省エネルギー法に基づき国内で販売される家電機器等のエネルギー消費効率を目標年度迄の期間内に一定の基準値以上とすることを製造・輸入販売事業者に義務づける規制措置を実施してきている。

当該効率基準規制は、1979年から実施され省エネルギー政策に大きな効果を挙げたと評価されており、再三の政策の見直しにより特定機器の追加や基準の改定が行われているが、現在の評価においては高齢化の影響が考慮されていない、費用や便益が定量的に計測されておらす省エネルギー量のみの評価に留まっているなどの問題が存在する。

こうした問題を克服する1つの手法として、本稿では家電機器を事例として、総務省家計調査報告などの統計値を基礎に世代層別の家電機器の購入・廃棄選択や使用行動を分析したモデルを構築し世代層別の家計世帯の家電機器の保有・使用による機器別販売価格・数量と機器別電力消費量の変化を試算するとともに、量産効果を基礎とした家電機器の生産費用推移モデルを構築し機器別の規制対応費用を試算することにより、「トップランナー方式」による家電機器効率基準規制について費用便益分析による定量的政策評価を試みた。

当該試算の結果、規制対象機器全般について割引率3%で現在価値換算した費用便益差は便益が費用を上回る正の値となり、当該規制措置は、年平均約1800億円の便益と約25Mt-CO2のCO2削減効果が同時に得られる極めて優れた政策措置であることが示された。

但し、電気冷蔵庫などでは費用便益差は正であるが、相対的に使用時間が短く技術的に効率向上余地の少ない電子レンジなどの機器では費用便益差は負でありかつ著しく費用対効果が悪い結果となり、当該規制措置の対象機器の選択においては費用対効果についての慎重な予備的検討を要することが示された。

また、当該試算結果の精度と安定性を確認するため、高齢化の影響、実質経済成長率、実質電気料金などについて感度分析を行った結果、費用対効果の試算結果において実質電気料金の将来見通しが大きな変動要因を与えることが判明し、本手法の今後の課題であることが示された。