年金制度をより持続可能にするための原理・原則と課題

執筆者 深尾光洋  (ファカルティフェロー/慶応義塾大学) /金子能宏  (コンサルティングフェロー/国立社会保障・人口問題研究所) /中田大悟  (研究員) /蓮見 亮  (慶應義塾大学大学院)
発行日/NO. 2006年3月  06-J-012
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概要

本稿では、現行の年金制度における問題点として、保険原理と扶助原理の複雑な混在が国民の年金制度への信用を阻害していることに着目し、保険原理と扶助原理の役割分担を明確にした年金制度改正の選択肢を、新たに開発した年金財政モデル(RIETIモデル)を用いて定量的に評価検討する。特に、基礎年金を扶助原理による最低生活保障であると位置づけて全額国庫負担で賄う制度改正案と、国民年金と厚生年金制度を所得比例年金を基本とした一階建ての統合新年金に再編し、最低保障年金を扶助原理に基づく給付として国庫負担で賄う改正案の二通りの案を試算対象とする。

基礎年金を国庫負担化する場合、二階部分にかかる保険料水準を2004年改革ベースの厚生年金保険料水準で維持すれば現行の約1.91倍の給付乗率を設定することができ、給付水準を2004年改革程度に維持すれば、二階部分にかかる保険料率を11.93%程度に引き下げることが出来る。また、基礎年金給付にかかる追加消費税率は最大で7%程度を必要とする。

統合新年金制度に年金制度を再編する場合、国庫負担にかかる消費税率は比較的低い水準で済むが、年金制度それ自体の規模が大きく膨らむため、現行制度の二倍程度の積立金が発生することになり、制度の導入には資本市場に対する影響を考慮せざるを得ないという結論が得られた。また、制度の移行により、新制度と旧制度の間で給付と負担の関係が大きく変化し、新制度導入により年金の収益性の向上する所得層と悪化する所得層が存在することが定量的に示された。