寡占市場に関する政策評価
-卸電力取引市場の評価-

執筆者 蓮池勝人  (株式会社野村総合研究所 主任コンサルタント) /金本良嗣  (ファカルティフェロー)
発行日/NO. 2005年7月  05-J-024
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概要

電力自由化の先進国では、自由化の過程で電力供給者の市場支配力が問題となった。日本においても、電力市場における競争性の確保は重要な課題である。本稿では、シミュレーション・モデルによって電力市場の競争性を評価する手法を解説する。

仮想例として、電力会社2社から構成される複占市場をとりあげ、夏季ピーク時の1時間についての卸電力市場のシミュレーション・モデルを構築する。まず、各企業が価格を所与として行動する場合に達成される効率解(ベルトラン均衡、あるいは完全競争均衡)を計算し、クールノー均衡をこれと比較する。クールノー均衡の価格は効率解の約6倍、死重損失は1時間で629百万円になる。

市場支配力を抑制する政策として、長期契約の導入、フリンジ・プレイヤーの参入、電力会社の分割の3つを考え、数値シミュレーションによってこれらの効果を評価する。

まず、長期契約については、その割合が高まるにつれて市場支配力が低下する。長期契約の比率が30%、60%、90%と上昇すると、価格は0%の時の47.0円/kWhから33.3円/kWh、21.2円/kWh、11.0円/kWhと下がっていく。社会的余剰はクールノー均衡を基準にすると、30%の時には358百万円、60%の時には545百万円、90%の時には625百万円増加し、90%のケースでは効率解とほぼ同じになる。

フリンジ・プレイヤーの参入については、その規模や限界費用により効果は多少異なるが、ほぼ効率解と同様の社会的余剰の増加を得るためには、総需要の半分程度にも達する大規模な発電能力をフリンジ・プレイヤーが保有する必要がある。

大きい方の電力会社を2分割すると、長期契約を30%とするのと同程度の384百万円の社会的純便益が得られた。

以上の結論は単純な仮想的なケースについて得られたものであり、現実の電力市場の評価を行ったものではない。しかし、シミュレーション・モデルを拡張してより現実的にすれば、電力市場の競争性評価の有効な手法となることが期待できる。