執筆者 |
山下一仁 (上席研究員) |
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発行日/NO. | 2005年5月 05-J-020 |
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概要
WTOの司法化がいわれる中で、最近、農業関係で二つの重要なパネル・上級委員会の判断が行われた。アメリカの綿花のケースとEUの砂糖のケースである。いずれのケースでも、パネル・上級委員会の判断は、ウルグァイ・ラウンドの交渉当事者の理解と大きく異なっている。交渉担当者は後に法律家によって判断されることを十分認識して交渉しているわけではない。その結果出来上がる協定文書は、法律文書というよりは政治文書というほうが適当である。このため、法律家による文言解釈が交渉経緯から外れたものになる可能性が高い。しかし、純粋な文言解釈もアメリカの綿花のケースで一人の委員の反対意見があったようにただ一つの解答があるわけではない。EUの砂糖のケースは交渉経緯とは異なるが、経済学的には妥当な判断である。しかし、アメリカの綿花のケースでの国産優先補助金、輸出信用等についての判断は、交渉経緯のみならず、法律・実体経済の点からみても、妥当ではない。また、このような判断が今回のドーハ・ラウンド交渉に与える影響も懸念される。
また、今回のドーハ・ラウンドの特徴として、ウルグァイ・ラウンド交渉との著しい類似性が挙げられる。ウルグァイ・ラウンド交渉経緯を振り返ることにより、パネル・上級委員会の判断の妥当性を検討するとともに、今後の交渉の行方を展望する。