電気通信サービスに関するGATSの構造
-米国・メキシコ電気通信紛争・WTO小委員会報告のインパクトと問題点-

執筆者 小寺 彰  (ファカルティフェロー)
発行日/NO. 2005年1月  05-J-001
ダウンロード/関連リンク

概要

本論は、米国・メキシコ間の国際通信をめぐる紛争についてWTO紛争解決手続(小委員会)が示した判断の意味を検討したものである。従来のGATTとは異なり、WTOにはサービス貿易を対象にしたGATS(サービス貿易に関する一般協定)が加わっているが、従来はGATSを正面から扱った紛争解決手続の判断がなかったために、GATSの真の意味が明らかでなかった。本件は、サービス貿易の中でもっとも規制が強化された分野の一つである電気通信サービス分野についての判断だけに、GATSの実態を認識するうえできわめて重要である。本件判断が示したことは、関係協定内に規定されている「原価」の意味等の曖昧な文言が明確な意義を有していることや、電気通信附属書が基本電気通信サービスの規制にも及んでいることであり、電気通信サービス分野を規制するGATSおよび関係協定・約束が従来一般に考えられていた以上に国家を強く拘束していることが示された。WTO紛争解決手続がGATSの強い拘束性を示したことは、現在行われている「サービス貿易交渉」の進行を遅らせる原因となる可能性があり、本件判断の適否については今後大きな議論を巻き起こすものと思われる。