中小企業のグローバル化の進展:その要因と成果

執筆者 河井啓希  (ファカルティフェロー)
発行日/NO. 2004年7月  04-J-037
ダウンロード/関連リンク

概要

プラザ合意以降に急激に進んだ円高の進行と90年代の長期にわたる不況は日本経済における既存の企業システム、特に大企業と中小企業との間の取引関係を変容させた。日本の中小企業は90年以降、かつてないほどの厳しい経営環境に直面したが、その中でそれぞれの企業は、新技術・新製品の開発をはじめコストダウン、省力化、経営体質の改善など様々な努力を続けながら、海外進出・海外調達にも積極的な取り組みを行っている。企業のグローバル化には、第1段階として「輸出入の直接取引」、第2段階として「海外企業との外注取引」、第3段階として「海外合弁子会社の設立」、第4段階として「海外子会社の設立」があるが、中小企業の状況を調査した平成10年の商工実態調査を見ると中小企業のグローバル化は大企業に比して依然として低水準であることが明らかになった。企業のグローバール化は、従来からDunningのOLI理論にもとづいて企業特殊資産により説明されてきたが、本研究では、企業特殊資産に加えて、企業間取引の存在、ネットワークを中心としたIT技術の導入、共同事業への参画がグローバル化の進展を促進する重要な要因であることが明らかになった。このことから中小企業のグローバル化を促進するには、研究開発、IT技術の導入、共同事業等を政策的に誘発することが必要であることが示唆される。その一方で、親企業の海外進出に伴う下請け関係の変容は、中小企業の生産性を抑制する可能性があるものの、企業内の研究開発、人的資本の蓄積、IT技術の導入、企業団体への参画、さらには海外進出による企業のグローバル化自体が逆に中小企業の生産性を向上させる要因となりうることに着目するべきである。