開発問題に関する国際的議論と日本の取り組みへの示唆

執筆者 宗像 直子  (上席研究員)
発行日/NO. 2002年11月  02-J-020
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概要

2001年9月の同時多発テロがテロの温床をもたらす貧困の削減に対する国際的関心を高め、また、2001年11月のドーハWTO閣僚会議、2002年3月のモントレー開発資金国際会議、同年8月末から9月初のヨハネスブルグ持続的開発世界サミットと、開発関連の一連の国際会議が開催されたことを契機に、開発問題に対する国際的議論が活発に行われた。特に議論が分かれるのは、現実になかなか貧困削減が進まないのはなぜか、という点であり、経済成長の処方箋の問題、先進国側の援助や市場開放が不十分という先進国側の対応の問題、途上国政府のガバナンスの問題などが指摘され、様々な解決策が提案されている。国際開発金融機関や欧米の援助関係者が主導するこれらの議論は、貧困削減と経済成長との関係、産業政策の余地、アフリカ中心など、日本の援助の考え方とは大きく異なる点もあるが、日本からの発信は弱い。

日本は、援助大国であって自国だけでまとまった独自の援助を実施できること、主たる援助対象であった東アジア諸国の開発が概ね成功してきたことなどから、これまで国際的な議論の動向から超然としてきた。しかし、時代は変わり、国際機関と援助国の協調が重視されるようになっていること、日本の援助額が財政上の理由等により減少が予想されることなどから、日本しても、国際的議論に対する影響力を高め、日本の援助が国際協調の中で有効に生かされるように働きかけを強める必要がある。現在、日本では援助政策の見直しが行われているが、このような国際的な開発動向に知的貢献を行うための体制整備が喫緊の課題である。また、日本は東アジアを中心に経済統合の取り組みを進めているが、途上国との経済統合に当たっては、開発戦略との整合性に十分配慮する必要がある。