中国の産業・貿易構造と直接投資:中国経済は日本の脅威か

執筆者 深尾 京司  (ファカルティフェロー)
発行日/NO. 2002年7月  02-J-011
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概要

中国の急速な経済発展に刺激されて、日本では2001 年頃から中国脅威論が流行している。

しかし、中国経済の長所と短所を標準的な経済学の視点から提示し、日中経済関係について冷静に考察した研究はあまり行われていない。本論文ではこのような問題意識から、特に日本との経済関係に焦点を当てながら中国経済の強みと弱点を分析した。中国の産業・貿易構造を概観すると、労働が豊富な一方で資本や農地が相対的に希少な中国は、軽工業を中心とする労働集約的な産業において強い国際競争力を持つ一方、競争力を持たない重化学工業や土地集約的な農業については保護政策により維持してきたことが分かる。一方、品目別貿易統計をもとに中国の貿易構造を分析すると、中国は軽工業品だけでなく電気機器についても世界市場で日本に近い高いシェアーを獲得するに至っている。日中間ではHS6 桁分類で見てもほとんどの電気機器について双方向貿易が行われており、両国間の棲み分けは価格や質の違いに関してであって、作っている財が全く異なるという訳ではない。

今後中国の技術力が高まれば、急速に日本と中国の電機産業が競合する可能性は否定できないように思われる。なお中国の輸出を担う電機産業や軽工業においては、付加価値に占める外資系のシェアーが約5割に達しており、日系企業を含む外資系企業が決定的に重要な役割を果たしている。