Research Digest (DPワンポイント解説)

日本の中小企業部門の効率性について-ゾンビ企業仮説と企業規模の視点から

解説者 後藤 康雄 (リサーチアソシエイト)
発行日/NO. Research Digest No.0122
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後藤康雄RIETIリサーチアソシエイトは、自身が取り組んできた中小企業の調査研究において、「がんばっている中小企業が報われること」に焦点を置いてきた。そのためのステップとして、本研究では金利減免や追い貸しにより生まれる非効率的な「ゾンビ企業」の研究を行った。企業活動基本調査のデータを活用して企業規模階層別にゾンビ企業を調査した結果、中小企業におけるゾンビ企業の比率が高いこと、中小企業がゾンビ化すると退出の確率が高まること、ゾンビの状態で退出する企業の企業内容は、非ゾンビ状態で退出する企業と比較して悪いこと、その一方でゾンビ化した後に業績が改善する中小企業も少なからず存在することなどを示した。

中小企業における「ゾンビ企業」

――今回の研究テーマに取り組まれた経緯をお話しください。

私は長らく中小企業関連の調査や研究に関わってきました。その間、「がんばっている中小企業が報われるにはどうしたらいいか」という基本的な問題意識を持ち続けてきました。経済学的、そして政策的に一筋縄ではいかない大きなテーマです。このテーマを私なりに多面的な視点で取りまとめ、2014年に『中小企業のマクロ・パフォーマンス 日本経済への寄与度を解明する』(日本経済新聞出版社)という書籍として出版しました。しかし、出版当時に着手できていなかった課題も多々あり、また2014年から現在までの経済状況の変化、経済研究の進歩などもあるため、出版後も同様の問題意識で研究を続けてきました。

2014年出版のこの本における1つの大きな着眼点は、中小企業の非効率性です。非効率性は経済学で多用される用語ですが、日常生活で使用されるニュアンスとはやや異なるかもしれません。経済学における非効率な状態とは、経営のインプットに対してアウトプットが十分に出せていない状態のことを表します。日本の中小企業はマクロ的な視点から効率性を改善する余地があると当時から考えていました。中小企業で働かれている方々からすると、精いっぱいがんばっているのに部外者から非効率と評価されてしまうのは感覚的に抵抗があるかもしれません。しかし、ここでの非効率とはあくまでも中小企業を群としてとらえた上で経済分析のデータから得られた結果論であるということをご理解いただきたいと思います。

がんばっている中小企業が報われること、そのような企業をサポートしていくことに関して異論を唱える方はいないと思います。しかし実際に適切な政策支援を行うことは簡単ではなく、さまざまな問題が起こり得ます。例えば、がんばっている中小企業の全てを取りもらしなくサポートするために支援対象を広げ過ぎると、本来支援したい対象に十分なリソースを配分できなくなるかもしれません。また、非効率な企業を必要以上に手厚くサポートすると、本来中小企業部門が有している新陳代謝機能を阻害する恐れがあります。報われるべき企業が報われるという問題意識から考えると、このことは大きな問題になる可能性があります。

以上のように、マクロな視点から非効率的な中小企業がどの程度わが国に存在しているのか、非効率的な中小企業はどのようなライフサイクルを経るのか、そしてそのような企業が他の中小企業や経済全体にどのような影響を及ぼすのか、という問題意識を持ち続けています。今回の研究では、その問題解決のステップとして、ゾンビ企業と呼ばれる企業を識別して、それらがどのような経済パフォーマンスを挙げているかということをデータで検証しました。

――ゾンビ企業とはどのように定義される企業でしょうか。

「ゾンビ企業」は、実質的に経営がほぼ破たんしているにもかかわらず、金融機関や政府などの支援により市場から退出せずにとどまっている企業のことを言い表した言葉です。ある企業がゾンビ企業かどうかを識別する基準は、先行研究の流れから、2種類に大別されます。

1つは、金利の支払いに関する基準です。プライムレートなどの市場標準的な指標を用いて各企業の本来考えられる利払い費を仮想的に計算し、実際の支払いがそれを下回っていれば、利子減免により延命させられているのではないか、ということです。非効率な状態であるにもかかわらず、金融面の優遇措置などにより企業が延命させられているイメージです。これは、キャバレロ・星・カシャップ(Caballero, Hoshi, and Kashyap)が2008年に発表した論文で採用していた方法でした。彼らは特に大企業に焦点を当て、先の基準で過度に金利が低い企業は不自然であるとして「ゾンビ企業」と形容しました。確かに1990年代や2000年代には、一部の規模の大きい企業に関して金融界と産業界が一蓮托生の形で不良債権問題を先送りにしているともとらえられる構図がみられたため、利払い費の少なさを基準にしたことには一定の妥当性があったと思います。

もう1つは、経済パフォーマンスを重視する基準です。こちらは、福田慎一教授(東京大学)および中村純一氏(日本政策投資銀行設備投資研究所)が2011年に提唱しました。彼らはまず当該企業の収益が仮想的な標準金利を賄える水準に達しているか、という基準を設けた上で、さらに長期貸出が前期と比較して増加しているかという点も考慮しています。いわゆる追い貸しのような、金融機関による追加融資も考慮に入れてゾンビ企業を識別するということです。通常、信用度の高い企業ほど信用リスクは低いため、結果として金利が低くなる傾向にあります。キャバレロ・星・カシャップのやり方だと、このような「信用度が高いために低金利である企業」もゾンビに識別される可能性があったため、信用リスクを反映するこうした基準が唱えられました。

また、各年のデータではなく一定期間の平均でゾンビ企業を識別した方が良いのではないかと考えた「A Panel Study of Zombie SMEs in Japan: Identification, Borrowing and Investment Behavior」(今井、2016)という論文もあります。福田・中村の流れを汲む内容ですが、中小企業の必ずしも正確ではないデータの各年の変化にあまりにも敏感に反応してしまうため、そのような個別的な変動を考慮して唱えられた方法です。

私どもの今回の研究では、中小企業部門のゾンビ企業の識別においては後者の方がふさわしいと判断し、福田・中村(2011)および今井(2016)が提唱したやり方を採用しています。

――ゾンビという言葉は、一度ゾンビになってしまうと戻れなくなるかのような響きに受け取れますが、実際はどうでしょうか。

確かにゾンビと聞くと「復活できない」という意味合いが込められているように感じられますが、実際はそうとはいえません。キャバレロ・星・カシャップの論文が執筆された時代には、金融問題を先送りにしていることへの苛立ちもうかがわれる「ゾンビ」という言葉が、その当時の問題意識をうまく反映していた面はあったと思いますが、現在の中小企業において同じニュアンスでその言葉を使うと、少しミスリードだと思います。

特に実務的には、個別性が高く経営面での変動も大きい中小企業において、ゾンビ企業であるかどうかの判断は慎重に行わなければなりません。ゾンビが個別企業の生死を分ける基準となりかねず、不適切な状況を生んでしまう可能性があります。ゾンビの概念はあくまでも産業レベルで見た目安ととらえるべきという点は、強調しておきたいと思います。

ゾンビ企業に関する新発見

――本研究の主な結果について説明をお願いします。併せて、先行研究における研究結果との違いも教えてください。

今回の研究における主な発見は2つあります。1つ目は、中小企業階層でのゾンビ企業比率が高かったことです。先行研究においては関心やデータの制約などから大企業部門のみ、もしくは中小企業部門のみを取り扱っていましたが、今回の研究では、企業規模の面である程度の網羅性を持つ「企業活動基本調査」の個票データを利用することで、企業規模階層別にゾンビ比率の高さを横並びで比較しました。その結果、大企業部門と比べ、中小企業部門におけるゾンビ企業の比率が高い可能性を示すことができました。これは、本研究の大きな発見です。

2つ目はゾンビ企業の経済パフォーマンスに関する発見です。具体的には、「中小企業階層でゾンビ企業と識別された企業は市場退出の確率が高まる」、「ゾンビ企業として退出すると、ゾンビではない状態で退出した企業に比べて企業内容が悪い状態で退出する」という結果です。しかし、ゾンビと識別された企業が必ずそれに当てはまるというわけではないことも分かりました。ゾンビとなった後に経済パフォーマンス改善がみられた企業も少なからず存在していたのです。従って、ゾンビとなった企業が全て見込みのない企業だと認識するのは誤りといえます。このこともまた大きな意味を持つ検証結果です。

――大企業と比較して中小企業の方がゾンビから復活する可能性が高いということは、どのような要因で起こっているのでしょうか。

現時点での仮説ですが、やはり企業規模が小さくなるほど経営の変動が大きくなるという一般的な傾向があるように思われます。企業年齢や成長力などの点で、大企業よりも中小企業の方がバラエティに富んだ幅広いタイプを含んでいるため、特に一部の企業では状況の変化が激しいということもあるのではないでしょうか。さらに無視できない点として、検証に使える中小企業のデータは大企業と比べて限られているため、それに基づく判断の正確性が大企業よりも劣るということもあると思います。大企業は財務データの開示度合いや正確性が高く、外部との情報の非対称性が小さいため、より正確にゾンビの識別ができるのに対し、中小企業ではそうではないため、個別に観察するとゾンビから復活するものも少なくないようにみえるのではな いかと考えられます。

図:中小企業・大企業のゾンビ比率
図:中小企業・大企業のゾンビ比率
注1:Imai基準とはImai(2016)、FN基準とはFukuda and Nakamura(2011)、CHK 基準とはCaballero, Hoshi and Kashyap(2008)、のそれぞれに基づく識別。
注2:中小企業は資本金1億円未満、大企業は同10億円以上で定義。

――ゾンビについて、海外の状況と比べたときに、日本における特徴としてはどのような事柄が挙げられますか。

日本と海外では中小企業政策が異なるため、同じ土俵で客観的に評価することは非常に難しいことですが、私を含め多くの中小企業研究者は「日本の中小企業政策は手厚い」と感じているはずです。わが国では、中小企業を経済社会における弱者とみなして、保護や支援を行う傾向が強かったように思います。1990年代以降はその傾向が薄れてきていますが、いまだにそのような土壌は残っているように思います。恐らくこのことが、日本でゾンビ企業が生まれやすい背景になっています。一方、海外では既存の中小企業の支援もさることながら、新たに参入するアントレプレナーの育成やベンチャー活動の促進などに政策の比重が置かれているように感じます。

――ゾンビ比率についてより詳細な分析では、どのような結果が得られましたか。

企業年齢の観点で分析すると、若い企業と比べ老齢化した企業の方がゾンビ比率が高いという結果が得られました。なお、本研究では老年層を設立後40年以上の企業と定めています。若い企業でも非効率的な企業は多く存在しているはずですが、若い企業はゾンビ化する前の段階で市場から退出していくのだろうと推察されます。対して年齢の高い企業では、取引している金融機関としても延命させようとの措置を講じたりすることで、ゾンビ化する度合いが強くなるのではないかと解釈しています。

業種別の視点からゾンビ比率をとらえると、意外にも製造業と非製造業では製造業の方が全体としてゾンビ比率が高い傾向にありました。より細かな業種別で分析すると、製造業でゾンビ比率が高いのは繊維、衣料など長らく構造不況的な状況にある消費財関連の業種や、新興国の台頭が目覚ましい素材系の業種と判明しました。非製造業においては、建設業や卸・小売など流通業のゾンビ比率が低く、これらの業種が、非製造業全体の比率を押し下げていました。このような非製造業の状況は、日本経済の流れを振り返るとある程度納得できる部分があります。2000年代以降は長らく公共投資を削減する日本政府の動きがあり、建設業にとって強い逆風が吹いていた時期が続きました。流通業に関しても、1990年代以降の大規模小売店舗立地法の改正・廃止や、コンビニエンスストアの台頭などによって業界内で構造転換が進みました。このような事情から淘汰が促され、結果としてゾンビ比率を押し下げる要因となったのです。このように考えると、経済や制度などの環境変化がゾンビ比率に影響を与えている大きな要因といえます。

ゾンビ企業に関連する政策支援

――ゾンビ企業に関連する過去の政策およびそれに対する評価や、今後のゾンビ企業への対応等について示唆などがあれば教えてください。

ゾンビ企業に関わる過去の政策としては、1990年代後半以降の金融関連の政策が最も重要なものと考えられます。具体的には、金融システム不安に対応すべく1998年に導入された中小企業金融安定化特別保証制度や、2008年のリーマンショックを受けての金融円滑化法が挙げられます。この2つの政策は中小企業の倒産防止に貢献したと同時に、わが国の中小ゾンビ企業の発生、増加を促す要因になったと思われます。

当時の情勢を受けてこれらの政策を講じたこと自体は現実的におおむね妥当だったと思いますが、出口戦略が考えられておらず、政策を収束させるスケジュールを設定できなかったために支援が長引いたことは問題だったのではないでしょうか。緊急避難的な色彩が強かったこともあり、大方の中小企業が対象になり得るカバレッジの広さも問題を大きくしました。

このことを踏まえた今後の教訓として、過度にゾンビ企業を生まないよう、政策支援の入り口段階の設計を検討してスクリーニングを働かせること、そして出口までのステップやスケジュールを明確にすることが重要です。金融支援というスタイルになるかは別として、緊急避難的な政策は今後も恐らく日本のマクロ政策として多用されていくでしょう。そうした中、ゾンビ企業という概念は政策立案の上で1つの有用な視点になる可能性があります。ただし、ゾンビの概念はあくまでも経済や産業の視点から大局的にみた判断の目安と位置付けるべきだと思います。ゾンビという言葉や概念が独り歩きすると、特にミクロレベルでは危険な状況を生み出しかねないため、言葉の使い方を含め慎重に臨むべきであることは、あらためて皆さまにお伝えしたいと思います。

――産業政策的な視点を取り入れて中小企業の新陳代謝を促すというのが昨今の方向性ですが、産業政策的な観点から具体的に押さえておくべき点はあるでしょうか。

日本では、中小企業政策が産業政策の中に位置付けられ、多様な政策が講じられていますが、中小企業はデータの制約が非常に強いために政策の効果を検証できないことが悩みとなっていました。こうした傾向は、産業政策の中でも特に中小企業政策の分野で顕著です。しかし、近年はITの発達などによってデータの収集、管理、分析の労力やコストが下がっているため、中小企業政策でも効果を測定できるようなデータを整備することが可能になりつつあります。こうしたデータを分析することによって、より適切な中小企業政策を講じることができれば、結果的にわが国の中小企業部門の活性化につながります。中小企業研究に取り組んできた経済学者として、私も何らかの形でお役に立てればと思っています。

表:前期のゾンビ状態が今期のゾンビ確率を高める度合い
表:前期のゾンビ状態が今期のゾンビ確率を高める度合い
注1:「ある事象がどの程度の確率で生じるか」を推計するロジット回帰に基づくオッズ比ベース。オッズ比とは、ある事象の起こりやすさの高低を表す指標で、プラス値は起こりやすい、マイナス値は起こりにくいことを意味する。今回の推計結果がマイナスとなっているということは、前期にゾンビ状態だと今期にゾンビになりにくくなることを表す。
注2:Imai基準、FN基準の定義は図の注1と同様。
注3:中小企業に関する推計結果。

今後の研究

――最後に、今後の研究の方向性はどのように考えていますか。

ゾンビ企業の識別は慎重に行うべきであり、この部分をさらに精緻にしていく方向性を考えています。特にデータ面の工夫や識別の方法などに関してはまだ検討の余地があります。また、今回発見した個別企業の非効率性が、時間の経過を考慮した上で、どのように産業界へ影響を及ぼしていくかという点も今後取り組む必要があります。とりわけ、企業の新規参入を中心とする新陳代謝に与える影響は大いに分析の余地があると思っています。今回のようにゾンビ企業の識別やそうした企業の割合を測定するにとどまらず、それらの存在やパフォーマンスが経済全体にどのようなルートを通じてどのような形でインパクトをもたらすかという点について、今後さらに深めていくつもりです。

解説者紹介

後藤康雄顔写真

後藤 康雄

1988年 - 1997年日本銀行(金融研究所、国際局など)、1997年 - 2015年1月(株)三菱総合研究所(政策・経済研究センターなど)
主な著作物:「地域金融の健全性と企業のイノベーション活動」(『国民経済雑誌』第206巻第2号・2012年)、「金融制約と企業規模分布の変化―企業ダイナミクスとの関係の検証―」(『応用経済学研究』第5巻・2011年)、「経済の視点からみる『科学』ー考え方とわが国の状況」(RIETI PDP 16-P-006)

文献
  • Caballero, Ricardo J., Takeo Hoshi, and Anil K. Kashyap. 2008. "Zombie Lending and Depressed Restructuring in Japan." The American Economic Review 98(5): 1943–77.
  • Fukuda, Shinichi, and Junichi Nakamura. 2011." Why Did‘ Zombie’ Firms Recover in Japan?" The World Economy 34(7): 1124–37.
  • Imai, Kentaro. 2016. "A Panel Study of Zombie SMEs in Japan: Identification, Borrowing and Investment Behavior." Journal of the Japanese and International Economies 39: 91–107.