ノンテクニカルサマリー

日米比較による長期の株式リターン分布の分析

執筆者 蟻川 靖浩(早稲田大学)/Vikas MEHROTRA(アルバータ大学)
研究プロジェクト 企業統治分析のフロンティア
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

融合領域プログラム(第五期:2020〜2023年度)
「企業統治分析のフロンティア」プロジェクト

本稿では、1977年から2019年までの日米上場株式を対象に長期リターンの分布を分析した。まず、日本と米国の株式リターンの分布は短期においては似た傾向を示している。例えば、月次でのネットのリターンの平均値(Mean)は日本が1.0%であるのに対し米国は1.1%、中央値(Median)は日本と米国でともに0.0%である。また、月次リターンの歪度(Skewness)は、日本が 7.1 であるのに対し米国は 7.4 である。他方、長期には、2つの市場のリターンの分布は大きく異なる。生涯リターン(Liftetime returns)で見ると、米国の方が日本と比較してより低いリターンが観察される傾向が強い。例えば、日本の生涯リターンの分布の第一四分位は-37.5%であるのに対し米国では-86.8%である。他方で、生涯リターンの平均は日本が370%であるのに対し、米国では約1300%と非常に高い。そして、生涯リターンの歪度は、米国(40.2)が日本(27.5)よりも高い。

図:日米の株式リターン(1977-2019)
図:日米の株式リターン(1977-2019)
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また、日本と米国の市場での上場廃止の傾向が大きく異なる。日本では1977年に上場した企業の約16.4%が2019年末時点でも上場を維持しているが、米国では1977年に上場した企業のうち2019年末時点で上場しているのは1.9%である。

サンプル期間全体を通じて株式市場で生み出された超過価値の合計を計算したところ、日本の場合、サンプル全体の約15%の銘柄によって株式市場全体の超過価値が説明できることが分かった。同様の計算を米国について行うと、その値は約3%であった。サンプル期間中に米国で上場していた銘柄の約3%によって、株式市場が生み出した超過価値のすべてを説明する。

以上の結果から、長期においては、ごく一部の株式が非常に高いリターンを生み出す一方で、多数の企業の株式のリターンはゼロに向かって収束していく傾向があることを示すことが分かる。また、日本との比較において米国市場でこうした特徴がより顕著に観察されており、この市場間の差について分析することは今後の課題である。