ノンテクニカルサマリー

経営者の幼少期戦争体験と企業財務投資活動

執筆者 Arman ESHRAGHI(カーディフ大学)/高橋 秀朋(法政大学)/胥 鵬(法政大学)
研究プロジェクト 企業統治分析のフロンティア
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

融合領域プログラム(第五期:2020〜2023年度)
「企業統治分析のフロンティア」プロジェクト

コーポレート・ファイナンスの文献では、過去の経験がリスクテイクの態度や信念に影響を与えることで、財務・投資活動に影響を与えることを示唆する研究が多く挙げられている。本研究では、経営者の属性データを用いて、経営者の幼少期戦争被害経験が企業の財務・投資活動に影響を与えるかどうかを検証する。下表に示したように、財務活動では、7歳から16歳の間に深刻な戦争被害を経験した経営者が率いる企業は、借入を多く、現金保有を少なく、設備投資を多く、M&Aを少なくするという傾向が見られた。これらの結果は、経営者のその他の特性や行動バイアスをコントロールした後でも頑健である。株式の発行やM&Aの際には、外部の投資家との接触が増える傾向にあるため、株式の発行が少なく、M&Aへの投資には消極的であるという傾向が幼少期の戦争体験が深刻な企業経営者に見られた。株式市場の外部投資家などに対しては猜疑的であり、より近い関係のステークホルダーに対して友好的な態度を取る傾向があることを本研究の結果は示唆している。また、設備投資が多いことは、「苦難を生き抜いたものは強くなる」という文脈で理解することもできる。この場合、「戦争の悲惨さを経験した経営者はより多くのリスクをとる」ということになる。

表
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われわれの実証結果は、今後の企業統治研究にも示唆を富むものである。まず、株式市場を敬遠する点から、深刻な戦争被害を経験した経営者は株式市場の圧力に対して敵対的な対応をとると推論できる。また、フリーキャッシュフローが潤沢で投資機会が乏しい成熟企業や衰退企業においては、設備投資が多いことは、コーポレートガバナンスの深刻な問題になる。経営者の経歴・経験と企業統治の関連に関する学術政策研究は、国内も海外も発展途上である。この研究を今後の経営者の経歴・経験と企業統治の相互作用に関する分析につなげれば、実り豊かな研究成果が期待できるといえよう。