ノンテクニカルサマリー

定年後の雇用パターンとその評価-継続雇用者に注目して

執筆者 久米 功一 (東洋大学)/鶴 光太郎 (ファカルティフェロー)/佐野 晋平 (千葉大学)/安井 健悟 (青山学院大学)
研究プロジェクト 労働市場制度改革
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

人的資本プログラム(第四期:2016〜2019年度)
「労働市場制度改革」プロジェクト

中長期的な労働力不足を背景として、政府は「働き方改革実行計画」(2017年)で高齢者の就労拡大を推進してきた。さらに「全世代型社会保障への改革」(2018年)では、意欲ある高齢者に働く場を提供するための方策の1つとして、65歳以降への継続雇用年齢の引き上げを含め高齢者の希望・特性に応じた多様な働き方が検討されている。

その議論に向けては、そもそも現状の継続雇用制度の実態を把握して評価しておくことが有益である。そこで、本研究では、経済産業研究所(RIETI)が実施した定年退職や継続雇用に関するウェブアンケートの個票データを分析して、高齢雇用者の立場から、継続雇用制度や高齢者雇用制度に対する評価を行った。分析対象は、現在働いており、60歳以前は従業員300人以上の大企業に勤務していた大卒以上、61~65歳(定年を迎えていない人を除く)の男女1109人である。「定年を迎えて同一企業で継続雇用制度を利用」して働く人を「継続雇用者」と定義した。継続雇用者は728人、それ以外は381人であった。

 

継続雇用者のアウトカムは、それ以外の就業者と比べてどうなのか。仕事満足度などのアウトカムを被説明変数、継続雇用ダミー変数などを説明変数とする回帰分析を行った。その結果は表1の通りである。継続雇用者は、仕事満足度や時間当たり賃金が低い傾向にあり、退職前と比べて賃金の低下幅が大きく、仕事内容との交差項をみると、後進・若手指導、あるいは、専門職の人の仕事満足度が高い、60歳時(定年前)と同種の仕事に就いている人の時間当たり賃金が低い、60歳時までに携わっていた業務とは関係のない業務に就いた人の適職感は低い、また、継続雇用者の65歳以降の就業意欲は低い傾向にあるという問題点があることがわかった。

表1:総括表
表1:総括表
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注)有意水準10%以下で統計的に有意な係数の符号のみを表記している。
説明変数には、属性(年齢、大学院卒ダミー、健康状態)、雇用形態(契約社員・嘱託社員、派遣労働者、パート・アルバイト、自営業主・家族従業員、自由業・フリース・内職・個人請負)が含まれる。特定化1、2は、継続雇用と仕事内容の交差項は含まない。

継続雇用者の雇用政策に対する評価を見ると(表2)、「定年までの賃金制度を変えず、65歳まで定年を延長すべき」「40から50歳代における賃金上昇を抑えても構わないので、同じ職場、同じ仕事、同じ賃金で65歳まで定年を延長すべき」の2つの選択肢に対して、継続雇用ダミーが有意に正であった。前者においては、定年までの賃金制度を変えないという、賃金低下に対する強い反対がみられた。また、後者は、現役世代の賃金水準を抑えてでも、定年前後の賃金水準を維持することを主張している。定年前後で賃金水準を大幅に引き下げるよりも、賃金プロファイルそのものを修正することを望んでいる(注1)。2つの選択肢には、「65歳まで定年を延長すべき」という共通点がみられ、「40から50歳代における賃金上昇を抑えても構わないので定年制を廃止し、働きたい人はいつまでも働ける仕組みにするべき」に対して、継続雇用ダミーの係数は有意ではなかったことや、継続雇用ダミーが65歳以降の就業意欲に対して負であったこと(表1)に鑑みると、継続雇用者は、「65歳」という区切りを重視し、制度いかんにかかわらず、とにかく雇用が継続されることを一番に希望していることが浮かび上がってくる。

表2:継続雇用者の政策に対する選好・評価:高齢者雇用制度に対する意見
表2:継続雇用者の政策に対する選好・評価:高齢者雇用制度に対する意見
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注)説明変数には、男性ダミー、年齢、大学院卒ダミー、健康状態、年金、勤続年数、企業特殊スキル、働き方の各ダミー変数(残業がある、配置転換や転勤がある、業務の範囲が無限定的で幅広い、社内外の関係者との調整業務が中心がある、組織のラインに組み込まれている、今より高いレベルのスキルを要する仕事を経験できる)、業種ダミー、職種ダミー、時間当たり賃金を含めている。

以上を踏まえると、次のような課題と対応のあり方が考えられる。第一は、現行の継続雇用制度を前提に、継続雇用者の満足度、賃金をいかに高めていくかである。継続雇用者の場合、60歳時までに携わっていた業務に関する後進、若手の教育係や専門職に従事している場合は、仕事満足度が有意に高まることを確認した(表1)。定年後も継続雇用を目指す場合においては、定年後も所属企業から必要とされるようなスキル、能力、専門性を磨いていくことが重要となろう。第二は、65歳までの高齢者雇用のあり方として、必ずしも満足度が高くない継続雇用に頼るのではなく、継続雇用以外の選択肢もいかに拡大するかである。こうした就業者の場合、適職感も高いことが注目される(表1)。第三は、現行の定年制度、継続雇用制度をいかに見直すかである。定年制、継続雇用制度といった高齢者雇用制度は、日本の雇用システムの根源にある、無限定正社員制度、後払い型賃金システム、雇用終了ルールと密接な関係を持ち、制度補完性を形成してきた(鶴(2016))。高齢者の就業率向上に当たって、単に継続雇用制度という一部の仕組みにのみ焦点を当てるのではなく、高齢者の希望・特性に応じて多様な働き方が選択できるように、議論、検討されることが望まれる。

脚注
  1. ^ ただし、61~65歳の就業者が答えているため、現在の現役世代の賃金を下げることで自分たちの賃金水準を維持すべきといった機会主義的な回答になっている可能性もある点に留意する必要がある。
参考文献
  • 鶴光太郎(2016)『人材覚醒経済』日本経済新聞出版社