ノンテクニカルサマリー

企業において発生するデータの管理と活用に関する研究

執筆者 渡部 俊也 (ファカルティフェロー)/平井 祐理 (東京大学政策ビジョン研究センター)/阿久津 匡美 (東京大学政策ビジョン研究センター)/日置 巴美 (内田・鮫島法律事務所)/永井 徳人 (光和総合法律事務所)
研究プロジェクト 企業において発生するデータの管理と活用に関する実証研究
ダウンロード/関連リンク

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

イノベーションプログラム(第四期:2016〜2019年度)
「企業において発生するデータの管理と活用に関する実証研究」プロジェクト

第4次産業革命において、IoT(モノのインターネット化)、ビッグデータ、AI(人工知能)の進展に伴い、データは革新的な成果をもたらすものと期待されている。こうした背景を踏まえ、本研究では、日本企業のデータ利活用の現状やデータ利活用によって成果を得るために重要な要因などを把握することを目的としてアンケート調査を実施した。加えて、商業的に有益なサービスを提供するためのデータ利活用に関する合理的かつ実用的な契約について検討し、論点を整理した。

アンケート調査では6278社を対象に質問票を送付し、562社から有効回答を得た。わが国では、データ利活用を積極的に行っている企業は比較的多いものの、ビッグデータやディープラーニング等の高度なデータを扱える体制や人材を有している企業はまだ多くはないことがうかがえた。しかしながら、データ利活用によって売上やコストダウンといった利益等の具体的成果が得られている企業も少なくなく、製造業と非製造業とを比較すると複数の事業で具体的成果が得られている企業の割合は非製造業でやや高いものの、製造業においても成果が得られている企業は一定程度見出された(図1)。製造業を含む日本の企業にとって、データ利活用を適切な条件で実施することによって、売り上げやコストダウンといった具体的成果を得ることができることが示されていることは重要である。

引き続きそのような成果を得るために何がポイントなのかについて回帰推計を用いることによって解析を行った。分析の結果から、データ利活用において成果を得るためには、「(利活用目的に即した)データの設計をしっかりと行えていること」、「高度なデータ処理を行える体制や人材を整備できていること」、「社内外で連携してデータ利活用を行える体制が整備できていること」、「契約書のひな型を使いこなせていること」が重要であることが示唆された。とりわけ、契約書のひな型の存在は契約の習熟度を示す変数であると考えられ、常に有意に相関していることからも、成果と密接に結びついていることが注目される。さらに事業別の回帰推計によれば、データ利活用における利害関係者との関係を構築するためには、データ提供者への便益が確保できていることが重要であることが示された。データ利活用契約を検討するうえでデータ提供者に対する便益を確実に織り込むことなどが重要であることが示唆されていることは実務的にも注目される結果である。

このようなアンケート調査を踏まえ、データ利活用契約について、現時点での法律解釈に基づき、複数機関が連携して実施する機械学習を用いた事業について3ケースをとりあげ、それらの契約について検討を行った。アンケート結果から示された考慮すべき論点を示しつつ、契約書の作成のポイントも検討した。モデルケースとしてはインダストリデータを利活用する場合について、研究開発段階の契約、事業化段階の契約の2つを検討した。また個人情報を含むデータを利活用する事業についても検討を行った。そのうちの1つのケースの内容を図2に示した。検討は企業の実務者や法律専門職などを交えて、実際の契約現場における実態を踏まえた検討を行った。これらのケースはデータ利活用契約の習熟のための教材として利用できるように、モデル契約書も作成した。

図1:データ利活用の成果
図1:データ利活用の成果
図2:データ契約のモデルケースの例
図2:データ契約のモデルケースの例

本研究のインプリケーションとしては、製造業を含む企業にとって、データ利活用によって、具体的に売上やコストダウンといった成果を上げることが可能であること、そしてそのためには、企業は、利活用の目的に沿ったデータをしっかり設計することのできる体制を整え、連携する組織との間で適切な契約を締結するなどの関係性の構築を実践することで、成果により結びつきやすくなることを示したことがあげられる。

また本DPの後半ではデータ利活用契約に関する検討を行い、そのモデル契約は研修等の教材でも活用できるように配慮してまとめた。今後、多くの事業分野において、機械学習によるデータ利活用を核とする事業が広がっていくことが予想されるなかで、データ利活用の際に契約に取り組む企業も増していくことが想定される。この際、それぞれの業界における知財法務部門においては、データ利活用契約に関する知識やスキルを向上させて交渉にあたることが重要である。

その点本研究の検討結果は、これらの研修や人材育成のための教材としても利用できるようになっており、それぞれの企業の知財法務部門、業界団体等においても、本DPを活用してデータ利活用契約に関する研修などを設けてスキルを向上させることで、産業界全体のデータ利活用が推進されることが期待できる。