ノンテクニカルサマリー

管理職の一側面

執筆者 神林 龍 (一橋大学経済研究所)/樋口 美雄 (慶應義塾大学)
研究プロジェクト 日本企業の人材活用と能力開発の変化
ダウンロード/関連リンク

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

人的資本プログラム(第四期:2016〜2019年度)
「日本企業の人材活用と能力開発の変化」プロジェクト

管理職とは誰であって、どのように働いているのだろうか?

素朴に聞こえる疑問であっても、政府のもつデータから答えるのは容易ではない。管理職になじむ単純な定義はなく、統計で統一的に計測され続けてきたわけではないからである。本研究では、独自のインターネット調査を通じて、政府統計の管理職の定義のもつ特徴を明らかにした。

本研究で調査対象としたのは、「第一次考課を担当する部下がいる」就業者3000名である。人事管理からみた管理職の職掌は「指揮/命令」と「評価」を両輪とするが、そのうち後者に着目して考察対象を選定したわけである(表中のSample A)。比較するグループとしては「まったく考課を担当しない労働者」(Sample B)と「第一次考課は担当しないが、第二次/第三次考課は担当する労働者」(Sample C)を設定した。これらの人々に、総務省統計局による日本標準職業分類の管理的職業従事者の定義(JSCO定義)にあてはまるかを問い、さらに厚生労働省による賃金構造基本統計調査の役職者の定義(MHLW定義)にあてはまるかを問い、そのクロス表を作成したところ、次の表のようになった。

図

どのサンプルをみても、MHLW定義のほうがJSCO定義よりも広い傾向があるものの、どちらの定義も、人事管理上の評価という職掌からみたときの管理職とは完全には一致しない。もともと、両定義は組織管理(経営管理)上のポジションとして管理職を定義しており、本調査で採用した人事管理上の定義と一致しないことは、それほど不思議ではない。重要なのは、第一次考課を担当する直接部下がいても、2割程度の人々がどちらの定義でも管理職とは認められないことである。より深く追求してみると、これらの人々は、女性で比較的低い最終学歴をもつ若い非正社員が多いことがわかった。

1980年代以降の非正社員の増加の背景には、非正社員を戦力化して職場の基幹に据えるという人事管理上の対応があったことが知られている。本稿での統計的考察は、政府統計の管理職の定義が、この種の戦力化された非正社員を過小にしか捕捉しない可能性を示している。統計的定義が組織的外形を重視するあまり、指揮命令と評価を両輪とする人事管理からみた管理的職掌と十分に対応できていないかもしれないのである。政府や国際機関が用いる管理的ポジションにおける女性比率の低さを議論する際には、日本の非正社員のうち管理的職掌を任された被用者をどのように位置付けるかを考慮する必要があるだろう。