ノンテクニカルサマリー

過剰設備と政策介入の効率性:セメント産業に関する分析

執筆者 岡崎 哲二 (ファカルティフェロー)/大西 健 (シンガポール大学)/若森 直樹 (東京大学)
研究プロジェクト 産業政策の歴史的評価
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

政策史・政策評価プログラム(第四期:2016〜2019年度)
「産業政策の歴史的評価」プロジェクト

過剰設備は日本を含む多くの国々で、特にある産業の製品に対する需要が長期的に減少傾向となった際に深刻な問題となってきた。過剰設備が長く残存する理由の1つとして、各企業の行動の選択が他の企業の行動の選択と関係するという企業間の戦略的相互作用があり、この場合には政策介入が企業の戦略的なインセンティブを除去して効率性を改善する可能性がある。本論文は、過剰設備に対する政策介入の有効性を、1980年代〜1990年代の特定産業構造改善臨時措置法と産業構造転換円滑化臨時措置法を対象とし、セメント産業に関するプラントレベルのデータを用いて実証的に検証した。

図1の通り1980年代に日本のセメント産業の設備稼働率は長期にわたって低水準にとどまり、過剰設備問題が生じていた。上記の2つの法律はこうした状況を政府の介入に基づく共同設備処理によって解決することを意図したものであった。図1は、政策が実施された期間に設備が大幅に減少し、稼働率が上昇したことを示している。重要な点は、この政策介入による設備処理が産業の効率性を歪めることなく行われた点である。第1に、政策の実施は各プラントの生産性と設備増減の関係に影響を与えなかった、より具体的には政策の実施によって非効率なプラントの設備が維持される傾向が強くなるという設備増減の歪みが発生しなかった(表1)。第2に、設備処理によって製品のマークアップ率は上昇せず、独占度が上昇するという弊害もともなわなかった。

図1:日本全国の生産設備量と稼働率
図1:日本全国の生産設備量と稼働率
表1:工場の生産性が設備処理の意思決定に与える影響
表1:工場の生産性が設備処理の意思決定に与える影響