ノンテクニカルサマリー

地方創生と自治体・サードセクター間の財政関係

執筆者 喜多見 富太郎 (京都産業大学)
研究プロジェクト 官民関係の自由主義的改革とサードセクターの再構築に関する調査研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

特定研究 (第四期:2016〜2019年度)
「官民関係の自由主義的改革とサードセクターの再構築に関する調査研究」プロジェクト

人口の小規模性、高齢化、人口減少(以下この3つを「人口三要因」とよぶ)が顕在化している市町村が行政サービスを持続的かつ効率的に提供することができるかは、今後の地方創生における重要な課題である。こうした地域では、サードセクターは行政からの補助金あるいは事業委託などの財政関係を通じて、市町村の行政サービスを補完する役割を担うと考えられるため、その状況を定量的に検証することは、今後の地方創生の推進のために必要な作業と考えられる。そのため、本稿では、図表1の検証スキームに従って次の3点を定量的に検証した。

①人口三要因と市町村の執行体制の関係の検証
②人口三要因とサードセクターの立地特性の検証
③市町村-サードセクター間の財政関係の検証

図表1:検証スキーム
図表1:検証スキーム

①については、市町村の執行体制を直接執行(公務員自らによる行政執行)、委託執行(行政からの委託に基づく指揮監督のもとに民間に行わせる行政執行)、間接執行(行政からの補助に基づいて民間と協働的に行う行政執行)というカテゴリーに分類し、総務省の地方財政状況調査データから性質別歳出項目と目的別歳出項目をクロス集計し、政策分野ごとにどのような執行体制で行われているのかを検証し(図表2)、それが人口三要因によってどのように変化するかを検証した。一般に市町村の執行体制については、直接執行(市町村の職員による執行方法)と間接執行(民間団体等への補助などによる執行方法)の間には明らかな負の相関が認められる。つまり、ヒエラルキーはガバナンスによって代替されるのである。この関係が人口三要因の顕在化でどう変化するのかをみると、市町村人口が小規模であるほど、人口減少が大きいほど、高齢化がすすむほど、直接執行と委託執行(事業委託等による執行方法)の比重が低下し、間接執行の比重が上昇するという緩やかな相関関係が認められる。すなわち、人口三要因が顕在化した「地方消滅」の危機にある市町村ほど、行政執行におけるガバナンスの比重が高まるのである。そして興味深いことに、人口三要因の顕在化によるヒエラルキーとガバナンスの代替関係は、政策分野で一様ではない。人口三要因の顕在化の影響を受けやすいのは、総務分野、農林水産分野、消防分野での直接執行の低下、土木分野の間接執行の低下、衛生分野の委託執行の低下などである。

一方、②については、サードセクターも、法人格の種類や事業活動目的によって人口三要因に関して異なる立地特性を示すことが、RIETIによる平成29年度「日本におけるサードセクターの経営実態に関する調査」から明らかになっている。人口三要因が顕在化している市町村では「医療・保健向上」「教育文化」「国際交流、人権擁護、平和推進、消費生活」を事業活動目的とするサードセクターの立地が少なくなる一方、「国土保全・防災」「農林水産業の振興」「地域活性化、地域振興」などを事業活動目的とする法人の立地が多くなる傾向がある。

図表2:目的別歳出費目別の行政執行体制
図表2:目的別歳出費目別の行政執行体制

このように、人口三要因に伴う市町村の執行体制の変容とサードセクターの立地特性を併せてみると、サードセクターが小規模・人口減少・高齢化の市町村での間接執行(ガバナンス)の担い手となる際にどのような課題が生じるかを予想することができる。たとえば、土木行政では小規模人口の自治体では間接執行率が低下するが、小規模自治体ほど国土保全・防災などの土木分野のサードセクターの立地も多くなり、市町村-サードセクター関係では、地域的なミスマッチが生じやすいと考えられる。また、衛生行政では、小規模自治体で委託執行率が低下するとともに、受け皿となる医療・保健分野のサードセクターも立地が減少するため、市町村における衛生行政そのものが縮小し、広域行政によって代替されるのではないかと考えられる。

今後の地方創生では、このような行政-サードセクター双方の事情を踏まえた互恵的な行政-サードセクター関係の構築が1つの鍵になるであろう。