ノンテクニカルサマリー

人工知能等の新しいテクノロジーを活かす能力とは何か 自己変化能と情報提供・働き方の変化に対する態度に関するアンケート分析

執筆者 久米 功一 (東洋大学)/中馬 宏之 (ファカルティフェロー)/林 晋 (京都大学)/戸田 淳仁 (リクルートワークス研究所)
研究プロジェクト 人工知能が社会に与えるインパクトの考察:文理連繋の視点から
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

イノベーションプログラム (第四期:2016〜2019年度)
「人工知能が社会に与えるインパクトの考察:文理連繋の視点から」プロジェクト

情報通信技術の発展とともに、人間を取り巻く環境の高度化・複雑化が進んでいる。こうした環境変化を受けて、人間の能力開発に関する議論が活発になされている。Frey and Osborne (2017)、Autor et al. (2003)、Feng and Graetz (2015)は、自動化されやすいタスクの特徴を議論している。一方、スキルについては、OECD(2015)が認知的スキルと社会的情動スキルを取り上げている。Kautz, T. et al. (2014)は、インセンティブを与えられたもとで、エフォート、認知的スキル、社会的情動スキルが相まって、タスクのパフォーマンスを左右するとしている。

これらの研究は、コンピュータ化によるタスクの代替・補完、それに関連するスキルを議論しているものの、人工知能などの新しいテクノロジーを活用する上で不可欠となる、テクノロジーに親和的なスキルや態度・考え方はどのようであるか、こうした問いに十分には答えられていない。

この問いを考える上で、手がかりとなるコンセプトとして、中馬(2015)が提唱した「自己変化能」がある。自己変化能とは、(1)一目瞭然化された状況のもとで、(2)自らの状況を認識し(メタ認知)、(3)共有化便益を追求して、(4)変化を志向・受容する、自ら変化する・自らを変化させる力のことである。

本稿では、経済産業研究所が実施したアンケート調査の結果を用いて、自己変化能を独自に定義して尺度化した上で、テクノロジーと親和的な行動を促すのか否かを実証的に分析した。調査対象は、日本、米国の(1)男性、(2)20-59歳、(3)フルタイム(週35時間以上)、(4)一定の専門性があり、職種と仕事内容が日米でほぼ同じと考えられる次の3つの職業に従事する人々:教師(小中高)、エンジニア(ソフトウェア・インターネット関連)、部下あり管理職(営業職、部長または課長)計2400人である。

自己変化能変数は、5つの設問の合成変数であり、図表1の通りの分布となった。米国に比べて、日本では、自己変化能のスコアの標準偏差が大きく、職種間の差も大きい(管理職で高く、教員で低い)。こうした自己変化能のばらつきが分布にも表れている。

図表1:自己変化能とテクノロジーの受容等との関係
図表1:自己変化能とテクノロジーの受容等との関係
注)自己変化能の変数は、以下の5 つの設問に対する回答の合成変数である。
①メタ認知 :「より高度な仕事、上流の仕事に従事するよう心掛けている」
「自分の仕事やスキルの価値が失われる可能性を判断しながら働いている」
②共有化便益:「自分が得た知識や経験をできるだけ他者に共有している」
③自己変化欲:「自分の考えが変わることを期待している」
④一目瞭然性:「同僚の作業プロセスとその結果を知って、自分をもっと高めようとする」
それぞれに対して、「全くそう思う」〜「全くそう思わない」の五件法で回答を得た。

自己変化能とテクノロジーに対する態度、テクノロジーを用いたデータ活用、これからの働き方の変化に関する賛否との関係について分析した結果は、図表2の通りであった。自己変化能が高いほど、日米ともに、テクノロジーの受容に前向きである。データの提供や働き方の変化に対しても、概ね同じ傾向がみられた。また、自己変化能とテクノロジーや働き方の変化への受容との親和性のインパクトは、米国の方が日本よりも大きいといえる。これらの結果は、新しいテクノロジーを円滑に社会実装していく上で、人びとの自己変化能に働きかけることが有効であることを示している。

図表2:自己変化能とテクノロジーの受容等との関係
図表2:自己変化能とテクノロジーの受容等との関係
注:被説明変数(テクノロジー受容)は、全くその通りでない=1〜全くその通りである=5の5段階の値をとる。
  被説明変数(データ提供)は、提供したくない=1〜提供してよい=5の5段階の値をとる。
  被説明変数(働き方の変化)は、反対である=1〜賛成である=5の5段階の値をとる。
  コントロール変数には、年齢層ダミー、学歴ダミー、週労働時間、職種ダミー、Big Five特性、認知能力、その他の変数を含む
  + p<0.10, * p<0.05, ** p<0.01, ** * p<0.001
文献
  • 中馬宏之(2015)「ICT/AI 革命下でのベッカー流人的資本理論の再考──自己変化能という視点から」『日本労働研究雑誌』No.663, pp.68-78.
  • Autor, David H., Frank Levy, and Richard J. Murnane. (2003). "The Skill Content of Recent Technological Change: An Empirical Exploration," Quarterly Journal of Economics 118(4): 1279-1333.
  • Feng, Andy and Georg Graetz (2015) "Rise of the Machines: The Effects of Labor-Saving Innovations on Jobs and Wages," IZA DP No. 8836
  • Frey, C. B., and M. A. Osborne (2017). "The Future of Employment: How Susceptible are Jobs to Computerisation?" Oxford University Programme on the Impacts of Future Technology, Technological Forecasting and Social Change, vol. 114, issue C, 254-280 2013.
  • Kautz, Tim.,James J. Heckman, Ron Diris, Bas ter Weel, Lex Borghans (2014) "Fostering and Measuring Skills:Improving Cognitive and Non-Cognitive Skills to Promote Lifetime Success" OECD(2015) Skills for Social Progress, The Power of Social and Emotional sklils