執筆者 | 家森 信善 (ファカルティフェロー)/相澤 朋子 (日本大学)/海野 晋悟 (高知大学)/小川 光 (東京大学)/尾﨑 泰文 (釧路公立大学)/近藤 万峰 (愛知学院大学)/高久 賢也 (広島市立大学)/冨村 圭 (愛知大学)/播磨谷 浩三 (立命館大学)/柳原 光芳 (名古屋大学) |
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研究プロジェクト | 地方創生に向けて地域金融に期待される役割-地域経済での雇用の質向上に貢献するための金融を目指して- |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
地域経済プログラム (第四期:2016〜2019年度)
「地方創生に向けて地域金融に期待される役割-地域経済での雇用の質向上に貢献するための金融を目指して-」プロジェクト
金融庁によると、多くの地域金融機関は、「金融仲介機能を発揮し、取引先企業のニーズに応じた融資やソリューションの提供により、企業の成長に貢献していく方針を掲げているにもかかわらず、顧客に対し理念通りの行動ができていない金融機関も少なからずあるように見受けられる」(『平成28事務年度 金融行政方針』)とされている。そこで、現在、金融庁は、金融仲介の質の向上を目指して、「支店のノルマ、業績目標・評価、人材育成、融資審査態勢等」について金融機関との間で「対話を行う方針」を示している。
今回、我々は、地方創生の取り組みや金融行政の新しい展開を受けて、地域密着型金融と地方創生に関する地域金融機関の課題について、地域金融機関の支店長を対象に調査を実施することにした。すなわち、この「現場からみた地方創生に向けた地域金融の現状と課題に関する実態調査」では、2017年1月から2月に、地域金融機関の支店長7000人(おおよそ全支店の4割に相当)に対して調査票を送付した。その結果、2868人(信用金庫1488人、地方銀行628人、信用組合392人、第二地方銀行334人)の回答を集めることができた。本稿は、その調査結果の概要を紹介している。
問13では、銀行の経営姿勢や経営環境に関する7つの文章について、「強くあてはまる」「ある程度あてはまる」「ほとんどあてはまらない」「全くあてはまらない」の4段階で評価してもらった。その評価の相関を調べてみると、「金利よりも融資量の確保を優先している」金融機関ほど、「事業性評価にしっかりと取り組めている」や「職員にとってやりがいのある職場である」について否定的な回答が多いことがわかった。量を求め続けるような金融機関では、事業性評価にしっかり取り組むのが難しく、また、職員のやりがいも低くなりがちのようである。他方で、「事業性評価にしっかりと取り組めている」金融機関ほど、「職員にとってやりがいのある職場である」との回答が多くなる傾向が見られた。このような結果から、一部の金融機関で見られる「利鞘縮小を融資拡大でカバー」する経営姿勢に対しては、それでは事業性評価は定着せず、職員のやりがいも下がっていくことになり、持続可能性が乏しいと評価できよう。
過去3年以内に人事評価に変化があったのかについて尋ねてみた(問27)ところ、変化の有無で回答を大別してみると、「あった」との回答が45.2%で、「なかった」との回答が52.2%であり、人事評価の変更に着手できているのはまだ半数弱にとどまっていた。ウエイトの変化を尋ねてみた結果が表1である。それぞれの業態で何のウエイトが高まっているかを見ると、地方銀行や第二地方銀行では「手数料収入の額」であるのに対して、信用金庫や信用組合では「新規貸出先の獲得及び新規先への貸出額」となっており、明確に差異が見られた。一方、「既存企業に対する経営支援への取り組み」のウエイトはいずれの業態でも「大きく上昇」の比率は10%台にとどまっており、目先の収益や貸出量をより重視する人事政策が続いていることがわかった。
地方銀行 | 第二地方銀行 | 信用金庫 | 信用組合 | |
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① 既存企業向けの貸出額及びその伸び | 5.3% | 5.4% | 8.7% | 12.3% |
② 新規貸出先の獲得及び新規先への貸出額 | 6.9% | 7.6% | 15.5% | 26.0% |
③ 既存企業に対する経営支援への取り組み | 14.0% | 14.1% | 11.4% | 15.7% |
④ 預金及びその伸び | 3.4% | 2.2% | 3.7% | 3.2% |
⑤ ビジネスマッチングの成約 | 20.7% | 18.2% | 9.1% | 13.2% |
⑥ 手数料収入の額 | 26.0% | 21.0% | 12.8% | 5.8% |
⑦ 事業承継の紹介・支援 | 22.7% | 17.8% | 7.5% | 6.9% |
⑧ コンプライアンス | 14.3% | 14.3% | 13.7% | 17.1% |
注)「大きく上昇」を選択した支店長の比率 |
金融機関のコンサルティング能力の向上に障害になっている要因を尋ねてみたところ、「非常に深刻」だとの回答が多い項目は、「中堅職員が不足して、若手への指導が手薄になっている」(22.3%)、「経営支援実行のための担当者育成・教育が不十分」(12.2%)であり、人的資源マネジメントの分野での課題が深刻になっていることが伺える(表2)。これらの回答は、社内だけでは対応できないことを示しており、外部との連携を進めることが不可欠であることが示唆される。
回答数 | 非常に深刻 | 深刻 | 多少は深刻 | 深刻ではない | わからない | |
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取引先の事業内容や業界の知識が不十分 | 2,788 | 211 | 946 | 1,180 | 412 | 39 |
100 | 7.6 | 33.9 | 42.3 | 14.8 | 1.4 | |
経営支援実行のための担当者育成・教育が不十分 | 2,790 | 341 | 1,107 | 1,088 | 223 | 31 |
100 | 12.2 | 39.7 | 39 | 8 | 1.1 | |
中堅職員が不足して、若手への指導が手薄になっている | 2,786 | 622 | 1,115 | 798 | 221 | 30 |
100 | 22.3 | 40 | 28.6 | 7.9 | 1.1 |
回答者は支店長であることから、「現在の役席に昇進する上で重要と考えられる評価項目」を尋ねてみた。最も重要なものとして、「法人向け融資における実績」をあげる人が54.9%と過半数を超えていたが、2番目に多かった回答は「人材教育・部下の育成の面での実績」で24.9%であった。人材育成の面での成果も評価する金融機関が相当程度あることが明らかになった。一方で、「最も重要なもの」もしくは「2番目に重要なもの」のいずれにも「人材教育・部下の育成の面での実績」をあげない支店長がおおよそ半数にのぼり、特に下位業態ほどその傾向が見られた。現場の支店長の選抜・育成についてボリューム重視の傾向が残っているようである。「若手への指導が手薄」という問題を解決するためには、「若手への指導」が適切に評価されるような仕組みを取り入れる必要があろう。
本調査の結果からは、事業性評価への取り組みそのものが職員のやりがいを高めるので、長期的には人材育成につながるものと考えられる。現場が顧客本位の姿勢をとるように、環境整備(評価、研修、採用など)を進めることが金融機関の経営陣に求められているし、そうした経営者の動きを支援するような行政姿勢が望まれよう。