ノンテクニカルサマリー

ジェネリック医薬品の普及とインセンティブ:一般名処方加算の導入の影響

執筆者 西川 浩平 (摂南大学)/大橋 弘 (ファカルティフェロー)
研究プロジェクト 新しい産業政策に係わる基盤的研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業フロンティアプログラム (第四期:2016〜2019年度)
「新しい産業政策に係わる基盤的研究」プロジェクト

伸び続ける薬剤費の抑制に向け、ジェネリック医薬品の普及が求められている。ジェネリック医薬品は特許の切れた医薬品について、その化学的同等性が認められた場合、大規模な治験等なしで上市できるため、先発して上市されたブランド医薬品と比較して安価なコストを実現できる。薬剤費抑制に向け、ジェネリック医薬品の普及を政策的に後押しするのは世界的なトレンドであり、我が国においても、2002年の診療報酬改定でジェネリック医薬品の使用に対するインセンティブが導入された。

継続的に政策が展開される中で、医薬品を処方する医師へのインセンティブである一般名処方加算を新設した2012年が政策の1つの転換期と評価できる。一般名とは医薬品の有効成分を指す。通常、処方箋には医薬品の販売名もしくは一般名が記載されるが、処方箋が医薬品の販売名で作成された場合、薬局は指定された名称の医薬品を患者に提供する必要がある。これに対して、一般名で処方箋が作成された場合、薬局はブランド医薬品、ジェネリック医薬品のどちらを販売しても構わないため、更なるジェネリック医薬品の普及が期待された。結果として、ジェネリック医薬品のシェアは2011年の39.9%から2013年には46.9%、2015年には56.1%にまで増大した。

本稿では、国内の医薬品市場において、患者数・売上高ともにトップクラスの規模にあり、かつ全ての作用機序(医薬品が生体に効果を及ぼすプロセス)でブランド医薬品とジェネリック医薬品が競合している降圧剤に着目し、一般名処方加算を含む2012年に実施された一連の政策の効果を定量的に評価することを目的とする。分析の結果、同年の政策を通じて、ジェネリック医薬品の販売量は7.7%程度押し上げられ、特に病院、診療所でジェネリック医薬品の利用が拡大された点が明らかとなった。ただし、政策の効果には都道府県別に地域差が存在し、2012年以前からジェネリック医薬品を積極的に利用していた地域ほど、政策の効果が大きい傾向にあった。

現在、厚生労働省はジェネリック医薬品のシェアを2020年までに80%へと高めることを目標としている。この目標を達成するには、ジェネリック医薬品の利用が全国的に拡大していく必要がある。しかし、これまでの全国で画一的に展開される政策では、目標を達成できない都道府県が出てくる可能性が高い。今後は地域の状況に応じたインセンティブの設定など、地域別の政策の展開を議論する必要がある。

最後に、降圧剤市場における政策の財政効果を試算した。試算を行うに当たり、ブランド医薬品からジェネリック医薬品への切り替え時に作用機序の変更について有無を確認したところ、19.9%の患者がジェネリック医薬品への変更に伴い、降圧剤の作用機序も変更していた。これは従来の試算で用いられた、患者は当初利用していたブランド医薬品のジェネリック版へ切り替えるという想定と異っており、財政効果の試算などにも影響を与えうる。作用機序の変更も勘案した上で、政策の財政効果を推定したところ、ジェネリック医薬品への切り替えに伴い、降圧剤の作用機序を変更しなかったと仮定する場合(以下の表における(2))では-90.7億円となったのに対して、降圧剤の作用機序の変更も考慮した場合(表での(3))の財政効果は-118.0億円と、(2)よりも30.1%抑制額が大きく推定された。以上の結果から、従来の方法に基づく財政効果の影響は過少に試算されている可能性があることが指摘できる。

表:ジェネリック医薬品普及政策の財政効果(単位:億円)
ベースとなる売上高 政策がなかった時の売上高
(1) (2) (3)
ブランド医薬品 8,266.4 8,481.6 8,508.9
ジェネリック医薬品 1,342.6 1,218.1 1,218.1
全医薬品 9,609.0 9,699.7 9,727.0
財政効果 ▲90.7 ▲118.0
注)(1)の全医薬品の売上高は富士経済株式会社の数値に基づく。(2)は患者がブランド医薬品からジェネリック医薬品に移行する際、作用機序を変更しないと仮定した時の売上高、(3)はブランド医薬品からジェネリック医薬品へ切り替える際に、作用機序の変更もあったと仮定した時の売上高を示している。