ノンテクニカルサマリー

地域を跨ぐ本社サービス投入の推計と影響評価

執筆者 新井 園枝 (経済産業研究所 計量分析・データ専門職)/金 榮愨 (専修大学)
研究プロジェクト 地域別・産業別データベースの拡充と分析 -地方創生のための基礎データ整備-
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業・企業生産性向上プログラム (第四期:2016〜2019年度)
「地域別・産業別データベースの拡充と分析 -地方創生のための基礎データ整備-」プロジェクト

本社の中で行われる「管理・補助的活動(以下「本社のサービス活動」という)」は傘下事業所の生産活動に少なからず影響を与える。そのため地域を跨ぐ本社とその支社の関係は、「県民経済計算」や「都道府県産業連関表」作成の際、大きな課題となっていた。本社の集中している東京都は早くからその問題に取り組んでおり、本社部門を設けた推計を行っており、2008年SNAのマニュアルでも「付随的活動」として推計の必要性が明記されている。

一方、地方創生策の一環として2015年度に、地域における本社機能の強化を支援する目的で「地方における企業拠点の強化を促進する税制措置」が導入されるなど、本社サービスは政策においても注目されるようになっている。

そこで本研究では最も新しい平成23年については独自推計、平成22年以前については東京都の推計値を利用して本社の生産額を推計し、傘下支社への影響を計算してみた。これらの値は「県民経済計算」や「都道府県産業連関表」の数字に影響を及ぼし、その結果、計測される都道府県の生産性水準も変化することになる。そのためこれらの推計値をとりこんだ「県民経済計算」の値を算出し、各都道府県における生産性の計算を行った。

計算結果を見ると、他地域からの「本社のサービス活動」の純移入を取り込んだ場合、「県民経済計算」の全国合計値と「国民経済計算」の乖離率は明らかに縮小した(第1表)。この結果は、東京都以外の道府県の生産額は、現行統計では過大評価となっていることを示唆している。また、埼玉県、千葉県、神奈川県、三重県、奈良県といった大都市近隣県は、他地域からの「本社サービス」の移入が多く、労働生産性にも影響を与える(第2図)。すなわち、現行統計はこれらの県の労働生産性を過大評価しており、本社サービスを補正した真の生産性は5%前後低いことを意味する。こうした乖離は、適切な都市政策・地域政策の企画・立案に際して無視できない大きさである。

今後、「都道府県産業連関表」や「県民経済計算」の基準改定にむけてこれらの「本社サービス活動」の概念が取り込まれることになれば、「国民経済計算」と「県民経済計算」の乖離の縮小にも大きな役割を果たし、統計の精度が更に高まることが期待される。また、「本社」が「支社」に与える「本社サービス」の経済活動を数値化することによって、近年の本社移転の影響等の分析において新たなデータを提供することにもなる。

第1図:都道府県における生産に占める「本社のサービス活動」の割合
第1図:都道府県における生産に占める「本社のサービス活動」の割合
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(出典)2000年度(平成12年度基準)、2005年度、2011年度(いずれも平成17年度基準)県民経済計算(内閣府)
第1表:「本社のサービス活動」を調整した県民経済計算と国民経済計算および労働生産性
第1表:「本社のサービス活動」を調整した県民経済計算と国民経済計算および労働生産性
第2図:「本社のサービス活動」の調整による労働生産性と調整率(調整率の平均との差)
第2図:「本社のサービス活動」の調整による労働生産性と調整率(調整率の平均との差)
(注)上段の棒グラフは、本社サービスの純移入を補正することで、各都道府県の労働生産性がどれだけ上方/下方修正されるかを意味する。(P)