ノンテクニカルサマリー

サービス業生産性の動態分析:TFPの企業間格差とヴォラティリティ

執筆者 森川 正之 (理事・副所長)
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

その他特別な研究成果(所属プロジェクトなし)

1.背景と分析内容

日本の潜在成長率が低迷する中、経済的シェアの大きいサービス産業の生産性向上に対する政策的関心が高くなっている。これは主要先進国に共通の政策課題であり、サービス産業を対象とした研究も徐々に進展している。しかし、基礎統計が充実しており、生産性分析の豊富な蓄積がある製造業に比べると、サービス産業の生産性の解明は依然として大幅に遅れている。特に、企業や事業所のミクロデータを用いたサービス産業の実証研究は数少ない。

本研究では、狭く定義された娯楽系のサービス業4業種を対象に、生産性の時系列での動態に関する実証的事実を提示する。具体的には、月次の政府統計である「特定サービス産業動態統計調査」(経済産業省)の16年間の個票データを使用し、以下の諸点について分析を行う。
(1)数量ベースの生産性指標(TFPQ)と金額ベースの生産性指標(TFPR)のクロスセクションでの分布および時系列的な動向の比較。
(2)生産性の事業所・企業間格差(dispersion)と産業平均生産性の関係。
(3)事業所・企業レベルでの生産性の時系列での変動度(volatility)と当該事業所・企業の平均的な生産性の関係。
サービス産業を対象にしたTFPQの分析は稀であり、特に月次のミクロ時系列データを用いた生産性のヴォラティリティの実証分析は、おそらく初めてのものである。

2.分析結果と政策含意

分析結果によれば、第1に、TFPQとTFPRの変動は、事業所レベルで高い相関がある。この結果は、サービス業の生産性の変動を分析する際、金額ベースの生産性指標を用いても大きなバイアスが生じないことを示唆するものである。

第2に、一般にTFPQの事業所間格差よりもTFPRの事業所間格差の方が大きい。この結果は、物的生産性の高い事業所はサービス単価が高い傾向があることを示唆しており、製造業を対象とした先行研究とは逆の結果である。生産性の高いサービス事業所・企業は、差別化された質の高いサービスを提供する傾向があることを示唆している。

第3に、産業平均のTFPが高いときは一般にTFPの事業所間格差が小さく、産業平均のTFPが低いときは事業所間格差が大きい(図1参照)。生産性が相対的に低い事業所・企業ほど生産性の変動が大きく、産業全体の生産性にとって生産性の相対的に低い事業所・企業の動向が強く影響することを示唆している。

第4に、TFPの時系列でのヴォラティリティが高い事業所・企業は、期間を均して見た生産性水準が低い。この結果は、サービス業において要素投入の調整費用が存在し、計測される生産性に対して、生産(=需要)の平準化が大きく影響することを示唆している。

図1:生産性の産業平均と事業所間格差の関係
図1:生産性の産業平均と事業所間格差の関係
(注)マイナスの数字は、産業平均のTFPが高いときほど、TFPの事業所間格差(dispersion)が小さく、産業平均のTFPが低いときほどTFPの事業所間格差が大きいことを意味する。パチンコホールはTFPQの計測に必要な物的アウトプットのデータが存在しないため、TFPRのみを示している。