ノンテクニカルサマリー

職業資格制度と労働市場成果

執筆者 森川 正之 (理事・副所長)
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

その他特別な研究成果(所属プロジェクトなし)

1.背景

職業資格制度は、消費者保護・労働者保護などさまざまな目的で、日本に限らず多くの国に広く存在する。職業資格制度は、スキルの低い者の参入抑止や人的資本投資の促進を通じて、サービスの平均的な質を高める可能性がある反面、競争制限効果を通じて独占レントを発生させ、市場の効率性や生産性向上を阻害する可能性がある。

職業資格制度の規制改革は、「規制改革推進計画」などを通じて具体化されてきたが、生命・財産の安全の確保を目的とした社会的規制が多く含まれていることもあって、経済的規制に比べてその改革は遅れている。特にサービス分野では、一般に供給者と需要者の間の「情報の非対称性」が深刻なこともあって、職業資格制度が存在する業種・職種が多く、サービス産業の生産性向上という観点からも資格制度の分析は重要な課題である。

他方、職業資格制度は、今後の女性・高齢者の就労拡大とも関連している。職業資格が労働者の能力のシグナルとして機能するならば、これら労働者の持つスキルと実際の仕事との良好なマッチングの実現に寄与する可能性があるからである。

しかし、職業資格の保有や使用は一般に政府統計の対象になっていないこともあって、資格制度の実態とその経済効果について産業・職種横断的に全体像が把握されているとはいえない。

2.分析内容

こうした状況を踏まえ、本稿では、独自に設計・実施した個人サーベイの結果に基づく1万人のサンプルを使用し、職業資格保有者の個人特性、職業資格の産業・職種分布、職業資格の保有と就労の関係、職業資格の仕事での使用と賃金の関係などについて、新たな観察事実を提示する。

本稿の特長は、(1)特定の職業資格ではなく産業・職業横断的に実態を明らかにする点、(2)職業資格のうち一般資格と独占的資格とを分けて扱う点、(3)職業資格を単に保有しているだけなのか、現在の仕事に使用しているかどうかを区別して分析する点にある。

3.分析結果と政策含意

分析結果によれば、第1に、半数以上の人が何らかの職業資格を保有しており、特に、医療・福祉、教育、建設業、運輸業、金融・保険業、不動産業では約7割以上の就業者が職業資格を保有している。高学歴者ほど職業資格を保有・使用している傾向があるが、専門学校の卒業者は職業資格保有・使用率が顕著に高い。

第2に、職業資格(特に独占的資格)保有者の就労率は高く、特に女性、60歳以上の男性で職業資格の有無による就労率の差が大きい(図1参照)。職業資格保有者は、出産・子育てで就労が中断した後や定年後でも、スキルを活かす機会を得やすい可能性を示唆している。

第3に、職業資格は高い賃金と関連しているが、単に資格を保有しているだけでなく、それを実際の仕事に使っていることが必要条件となる。一般資格よりも独占的資格において賃金プレミアムがずっと大きく、推計された賃金プレミアムの中に独占的レントがかなり含まれている可能性が示唆される(図2参照)。

以上の通り、職業資格制度にはプラス、マイナスの両面がある。規制改革の中で20年以上にわたって指摘されてきた通り、業務独占資格や必置資格については、対象業務範囲の見直し、近接した複数の資格制度の相互乗り入れ、資格取得要件の緩和による有資格者の供給拡大など、技術進歩や経済実態の変化に対応した不断の制度見直しが必要である。

図1:職業資格の保有と就労確率
図1:職業資格の保有と就労確率
図2:職業資格の賃金プレミアム
図2:職業資格の賃金プレミアム