ノンテクニカルサマリー

市場サービスの質・価格と家計内サービス生産

執筆者 森川 正之 (理事・副所長)
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

その他特別な研究成果(所属プロジェクトなし)

1.背景と分析内容

経済成長のカギとなっているサービス産業を対象とした生産性の実証分析は、このところ徐々に蓄積されてきているが、サービス産業は製造業と異なり、企業・事業所側のデータからの分析だけでは解明できない点が多い。

第1に、多くのサービスでは生産と消費が同時に行われるため、繁忙期・閑散期や時間帯に応じた柔軟な価格設定を通じて稼働率を高めることが重要である。しかし、価格設定戦略の有効性は、需要側(消費者)が価格差に対してどの程度感応的かに強く依存する。第2に、多くのサービスの生産では、利用者の労働時間投入が不可欠である。しかし、生産性の計量的な計測に際して、消費者の労働投入が明示的にインプットとして扱われることは滅多にない。第3に、サービスの生産性の計測においてサービスの質をどう測るかが大きな課題となっている。しかし、サービスの質の正確な計測は難しく、ユーザーの主観的な評価を把握することが有用である。第4に、市場サービスは家計内サービスや企業内サービスとの代替可能性が高い。女性就労の拡大、引退した高齢者の増大などに伴う市場サービスと家計内生産の間での代替関係を明らかにすることは、日本経済の今後を考える上で重要な課題である。

そこで、本稿では、独自の調査に基づく1万人のサンプルを使用し、サービス消費をめぐる構造変化、サービスの質・価格と店舗間・異時点間の代替、家計内サービス生産との代替可能性について、新たな観察事実を提示する。

2.分析結果と含意

分析結果によれば、サービスの所得弾性値はモノに比べて高く、所得水準の上昇はサービス消費の拡大につながる可能性が高い。人口高齢化も、消費のサービス化を拡大する要因になると考えられる。

運輸、飲食・宿泊、医療など多くのサービスについて、それらの質が近年向上していると評価している消費者が多い(図1参照)。これらサービスの生産性上昇率が過小評価されている可能性を示唆している。

セルフサービスの適当な価格ディスカウントは10%〜15%というのが平均的な見方であり、フルサービスに対する支払意思(WTP)が存在する。繁忙期・閑散期の間での利用時間の変更のために必要な価格差は10%〜15%程度であり、平均的には異時点間の代替の弾力性は比較的大きいと推察される。したがって、価格設定戦略の工夫によってサービス需要の平準化を図る余地は大きいと考えられる。

飲食サービスやクリーニングは家計内生産との代替可能性がかなり高いのに対して、保育サービスや理美容サービスは代替性が比較的小さい(図2参照)。ただし、女性や高齢者は家計内生産との代替性が高く、高所得層は代替性が低いなど、個人特性によってかなりの違いがある。

図1:10年前と比べたサービスの質の変化
図1:10年前と比べたサービスの質の変化
図2:市場サービスと家計内サービスの代替関係
図2:市場サービスと家計内サービスの代替関係