ノンテクニカルサマリー

国際貿易と国内取引ネットワーク

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

地域経済プログラム (第四期:2016〜2019年度)
「組織間ネットワークのダイナミクスと地理空間」プロジェクト

近年の企業や事業所レベルでの輸出入データの普及に伴い、国際貿易モデルも企業の異質性を考慮したものへと発展を遂げてきた。その中でも先駆的な役割を果たしたメリッツモデル(Melitz, 2003)では生産性の異なる企業が存在し、輸出に固定費用がかかるため生産性の高い企業のみが輸出を行う。そこに市場参入と産業ダイナミクスを考慮すると、貿易政策によって企業間の資源の再分配が起こり、企業分布や総生産性が変化することを示した。

その他にも多数のモデルが研究されてきたが、そのほとんどで企業間の中間財の取引は考慮されていない。しかし実際のデータを見てみると、企業は複雑な生産ネットワークを構築しており、売り上げに占める中間財の割合も50%を超える産業が少なくない。このような状況では誰が付加価値を輸出しているのかを明らかにすることは非常に重要である。

企業レベルの貿易量の分布は非常に偏っていることが知られているが、トヨタなどの大企業は国内に多くのサプライヤーを抱えている。これらの国内サプライヤーは中小企業が多く、彼ら自身は貿易に参加しない。しかしトヨタという輸出企業と中間財を通して繋がっているため、彼らも外国のショックから無縁ではない。このように広義の付加価値貿易という観点から見ると、今までの貿易モデルでは非輸出企業と分類された企業も間接的にかなり貿易に参加している可能性がある。

本研究では国際貿易のモデルに国内の生産ネットワークを組み込むことで、間接輸出企業が果たす役割や、海外のショックがどのように国内の企業に波及するかを分析した。東京商工リサーチ(TSR)の大規模な企業間取引データおよび、企業活動基本調査の企業レベルの輸出データをつなぎ合わせ、直接輸出企業、そして間接輸出企業に分類した。間接輸出企業は直接貿易をするわけではないが、輸出企業に財やサービスを提供することで、その付加価値が間接的に輸出される。また間接輸出企業も海外市場へのサプライチェーンの距離から一次、二次と分類していくことができる。

データを見ると、直接貿易をしている企業は少ないが、半分以上の企業が二次までの取引にて直接輸出企業と取引関係があるため、販売された財が輸出財の生産に使われている可能性がある、という意味で間接輸出企業と解釈できる。間接輸出企業は、特に製造、卸売業で割合が高いことがわかった。建設やサービス業といった非輸出産業と呼ばれるセクターでもおよそ半分の企業が間接輸出企業と捉えることができる。また 直接、一次間接、二次間接、非輸出業者において、売り上げや従業員数などのソーティングも確認された。

また2005年と2010年のデータを使い、為替などの海外リスクの国内業者に対する正で有意な波及効果も確認された。2005年はそれまで円安傾向が続いており、輸出企業の売り上げは他の企業にくらべ高い成長率を示していた。これらの直接輸出企業に繋がっている川上のサプライヤーを間接輸出企業とし、差分の差分回帰分析を行ったところ、一次間接輸出企業は2〜3%、二次間接輸出企業は1〜1.5%の売り上げの波及効果を受けることが確認された。また輸出の割合が大きい企業に卸しているサプライヤーに対する波及効果はさらに大きいこともわかった。2010年は逆に円高の影響から輸出企業は負のショックを受けており、これらも川上のサプライヤーに波及することがわかった。図は推定された波及効果を示している。輸出業者に対するショックは、その正負に関わらず、国内のサプライヤーに波及し、サプライチェーンを伝わる中で逓減していく。

これらの結果は、既存の貿易統計で分類される輸出および非輸出企業の定義は実は曖昧であり、海外市場へのサプライチェーンを通じた距離が重要であることを教えてくれる。貿易自由化などの政策が企業間格差や産業ダイナミクスに与える影響を考える際には、間接的に付加価値を輸出する企業の役割を考慮することが非常に重要であることを示唆している。

図:外国ショックの波及効果