ノンテクニカルサマリー

中国の経済成長における情報通信技術(ICT)の役割

執筆者 伍 暁鷹 (一橋大学経済研究所)/梁 涛 (一橋大学経済研究所)
研究プロジェクト 東アジア産業生産性
ダウンロード/関連リンク

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業・企業生産性向上プログラム (第四期:2016〜2019年度)
「東アジア産業生産性」プロジェクト

中国改革開放以来、中国経済の急速な成長と世界経済との融合は、情報通信技術(ICT)の世界的な拡大、特に製造業におけるICTの利用と重なる部分があった。中国がWTO加盟後、世界最大の製造拠点として急速に発展したのは、豊富にある安価な労働力を活用しただけではなく、ICTによる恩恵を受けた製造業が生産性の向上を実現したからであるといわれている。

したがって、改革後の経済成長と生産性の向上の両面から、中国経済におけるICTの役割について研究することはたいへん重要なことといえる。しかし、中国のICT資産に関連する投資データが事実上ほとんど存在しないという大きな弊害があった。そこで、本研究では、最新のCIP(中国産業生産性データベース)データを用いて、中国経済におけるICTの役割を間接的に評価することを試みた。分析方法として、ICT製品の生産または使用との関係を基準に、産業をグループ化した上で生産性分析を行った。

Jorgenson et al. (2005) の方法に基づいたこの成長会計によって、経済成長と生産性変化の源泉が、主にどの産業グループにあったのかを見つけ出すことができる。この結果、1981-2012年の全期間を通じてICT関連製造業は中国GDP成長率(年率9.4%)の29%、TFP成長率(年率0.86%)の149%を占めていることが明らかとなった。

ICT関連産業は、中国のWTO加盟後(2001-2007)、最高の成果を成し遂げ、その後2008年秋のリーマンショックを契機に勃発した世界的な金融危機(GFC:global financial crisis)とその後の景気停滞による落ち込みはあるものの一貫してTFP成長率を牽引してきた。ICT関連産業は他の産業に比し激しい市場競争にさらされているがゆえに、優れたTFPの成長を達成することができた。生産性重視の成長に移行するには、産業政策を通じた政府介入を大幅に削減すべきであるという重要な教訓といえよう。

図:ICT特定産業グループによる全要素生産性(TFP)成長
(加重貢献度)
図:ICT特定産業グループによる全要素生産性(TFP)成長(加重貢献度)
出典:著者による推計結果