ノンテクニカルサマリー

グローバリゼーションと企業内部門、企業、産業レベルでの雇用創出・喪失分析: 日本の製造業企業のケース

執筆者 安藤 光代 (慶応義塾大学)/木村 福成 (慶応義塾大学 / ERIA)
研究プロジェクト 東アジア産業生産性
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業・企業生産性向上プログラム (第四期:2016〜2019年度)
「東アジア産業生産性」プロジェクト

アメリカでは、トランプ政権に移行し、保護主義的な動きが加速している。中国からの輸入がアメリカの雇用に与える影響を分析した学術論文に対して、残念ながら、その負の影響ばかりが注目されているが、これらの論文の主張点は、本来、産業構造の調整とそれに伴う労働移動の重要性である。企業活動のグローバル化が進み、国際的な競争環境も大きく変化する中、産業構造の調整やそれに伴う労働移動は、とりわけ先進国において、避けては通れない重要な課題である。産業・業種単位の国際分業よりも生産工程・タスク単位の国際分業の方が本当に空洞化を回避あるいは遅延させることができるのか、またどのような形で国内調整が行われているのかは、実証的に確認すべきである。

その研究の一環として、本論文は、日本の製造業企業を対象とし、雇用創出・喪失分析の手法を用いて、産業レベル、企業レベル、企業内部門レベルという3段階で、企業活動のグローバル化と雇用面から見た国内調整の関係を検証した。本研究で扱った企業データでは、従業員数が50人に満たない中小企業が網羅されていない点を踏まえて解釈する必要はあるものの、2000年以降の3期間(2000-04年、2004-08年、2008-12年)において分析した結果、国内の製造業の空洞化は2000年代初頭に進んだがその後はあまり進んでいないこと、産業レベルと違って、企業レベルや企業内部門レベルでの粗創出率と粗喪失率はいずれも純変化率よりはるかに大きいことから、構造調整のダイナミズム、企業の異質性、企業内での活発な調整が認められること(図1)、とりわけ海外でのオペレーションを強化する中小企業が、国内雇用を増加させ、本社機能を強化して製造業活動を維持あるいは拡大していることなどが明らかになった(図1、図2)。

また、本論文では、輸入競争と国内調整の関係についても分析を行った。2000年代初頭には輸入競争の雇用への負の影響が認められるものの、その後、そのような傾向は弱まり、むしろ企業活動のグローバル化が国内での補完的な活動や国内雇用の拡大を助長していることなども明らかになった。

先進国が国内に経済活動を残すためには、産業間調整だけでなく、同じ産業内や企業内部門間での調整も重要である。少なくともこのような調整を柔軟に行うことで、急激な空洞化を避けることはできるはずであり、労働市場に対する政府の政策はそのような企業努力の一助になりうるだろう。また、立地の優位性を高めることも必要不可欠である。先進国に残しうる経済活動として、たとえば、本社機能、研究開発活動やパイロット/マザー工場、大規模集積回路製造などの高度な資本集約的生産工程、自動車産業のような集積を活用した活動、レーザープリンターのOEM生産のような特許やブラックボックス化した技術を多用する生産活動など、さまざまなものが考えられる。日本国内に経済活動を残すためには、その活動にとって日本が世界で最も適した立地となるように、立地の優位性を高める必要があり、その改善において政府の役割は大きい。特に生産工程・タスク単位の国際分業においては、大雑把な要素価格(たとえば賃金水準)もさることながら、経済活動ごとの細かいニッチも大きく効いてくるため、地方政府の果たしうる役割も大きい。立地の優位性と企業特殊資産を踏まえ、どのような工程を日本に残すことができるのか熟慮していくべきである。

図1:企業レベルでの国内雇用の変化:粗雇用創出率JC、粗雇用喪失率JD、純変化率NetG(%)
図1:企業レベルでの国内雇用の変化:粗雇用創出率JC、粗雇用喪失率JD、純変化率NetG(%)
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出所:Ando and Kimura (2017)
注:Local, MNE1, MNE2は企業タイプを指し、それぞれ海外子会社を持たない企業、海外子会社を増加させた多国籍企業、そうでない多国籍企業である。
図2:企業内部門別国内雇用の変化(%)
図2:企業内部門別国内雇用の変化(%)
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出所:Ando and Kimura (2017)
注:Local, MNE1, MNE2は企業タイプを指し、それぞれ海外子会社を持たない企業、海外子会社を増加させた多国籍企業、そうでない多国籍企業である。