ノンテクニカルサマリー

外国資本比率は輸出行動・技術開発投資にどう影響するか? 日本企業の検証

執筆者 大久保 敏弘 (慶応義塾大学)/Alexander F. WAGNER (チューリッヒ大学)/山田 和郎 (長崎大学)
研究プロジェクト 国際化・情報化新時代と地域経済
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

地域経済プログラム (第四期:2016〜2019年度)
「国際化・情報化新時代と地域経済」プロジェクト

日本企業は伝統的に外国資本比率が低く、日本全体でも対外直接投資に比べて対内直接投資が非常に低く、外資系企業の参入や外国資本比率が極めて低いことが知られている(深尾・天野、2004)。しかし「失われた20年」の中で外国資本比率をめぐる変化は顕著である。国内の景気が低迷し、一方で国際的な競争が激化したり、規制緩和などで市場競争が変化してくると、保守的な日本企業のいくつかは経営に失敗したり、あるいは立て直しのため企業外部、とくに外国から人材を登用し経営危機を乗り切った。また外資比率を高めることで、経営を透明化し、財務状況や業績の改善に尽力した。本論文では、外資比率が企業のリスク行動、特に輸出やR&D投資にどのような影響を与えたのかを分析した。

下記の図1は上場企業、非上場企業別の輸出比率と外資比率の平均値を時系列的に示したものである。輸出比率はこの20年で着実に増大している。また同時に外資比率も上昇傾向にある。特に上場企業では外資比率と輸出比率はともに顕著に伸びている。さらに図2のように、特に上場企業では正の相関がみられる。つまり外資系比率が高いと輸出比率も高くなるのである。実際、本論文でさまざまな推計をした結果、外資比率が高いほど、輸出比率は高く、R&D投資にも積極的であることが分かった。

図1:外資比率と輸出比率の平均値(上場企業、非上場企業別)
図1:外資比率と輸出比率の平均値(上場企業、非上場企業別)
図2:輸出比率(縦軸)と外資系比率(横軸)の相関(binned scatter plot)
図2:輸出比率(縦軸)と外資系比率(横軸)の相関(binned scatter plot)

次に日本国内の地域を見ると、表1のように外資比率は東京や大阪に高度に集中していることが分かる。一方でR&Dや輸出比率も都心部で高いものの、地方でも高い府県が多くみられる。

本論文ではさまざまな推計の結果、都心部と地方とでは係数の強さに違いはあるものの、地方でも外資比率が正に輸出比率に影響していることが分かった。つまり、地方でも外資比率を上昇させれば、輸出比率は着実に伸びることになる。また、外資比率のR&D投資に対するインパクトは都心部に比べて地方では有意に大きいことから、技術開発投資に対するプラスの影響は都心部よりも大きいことを示唆している。

したがって、外資比率を地方で伸ばすような政策を行うことで、地方でもイノベーションが活発化し、輸出が伸びることが示唆される。たとえば、地方で外資比率を高めるような特区構想を作ったり、法人税を優遇するような政策を行い、誘致することが具体的に考えられる。

Tomiura and Okubo (2013)では、工業統計調査を用いて輸出の行動を地域別で厳密に分析し、地方における卸売業や輸送インフラの重要性を主張した。地方における物流インフラ拠点や流通業をうまく戦略的に利用することで、生産性が高いにも関わらず輸出していない企業(いわゆる「臥龍企業」と呼ばれる)の輸出を促進できる。輸出を通じて地方経済を活発化できると結論づけた。一方、本分析では、地方で外資系企業を受け入れる、あるいは外資比率を上昇させることで、企業内部が活性化され、国際化でき、輸出やR&Dを促進でき、地方経済が活性化できるということを示唆している。

表1:府県別外資比率、輸出比率、R&D投資比率
Prefecture Relative GDP
(Tokyo = 100)
Export
Share
R&D
Intensity
Foreign Ownership
0% 0.1 to 9.9% 10 to 33.3% 33.4 to 49.9% 50 to 99.9% 100%
1 Hokkaido 19 1.31 0.31 257 2 0 0 0 0
2 Aomori 4 3.31 0.20 81 0 1 0 0 0
3 Iwate 4 1.08 0.47 104 0 0 0 0 1
4 Miyagi 9 4.66 0.57 124 1 1 1 0 3
5 Akita 4 2.02 0.53 86 0 1 0 0 1
6 Yamagata 4 2.96 0.25 162 0 0 0 1 3
7 Fukushima 8 2.71 0.33 153 2 1 1 0 2
8 Ibaraki 12 2.66 0.25 182 1 2 1 3 1
9 Tochigi 8 5.97 0.62 159 2 1 2 1 4
10 Gunma 8 4.45 0.65 194 8 1 0 1 4
11 Saitama 20 5.71 0.87 463 19 9 2 2 4
12 Chiba 20 4.73 0.65 216 9 2 0 2 2
13 Tokyo 100 7.94 1.29 1988 195 170 39 38 62
14 Kanagawa 32 8.50 1.57 533 39 16 6 10 14
15 Niigata 9 4.75 0.43 269 7 2 0 0 2
16 Toyama 5 3.39 0.41 230 8 4 0 0 0
17 Ishikawa 5 2.65 0.69 144 5 2 1 1 1
18 Fukui 3 4.12 0.91 107 4 1 0 0 1
19 Yamanashi 3 9.02 1.10 67 2 0 1 1 0
20 Nagano 8 6.95 0.74 301 7 8 0 2 3
21 Gifu 8 3.02 0.54 289 3 2 1 1 1
22 Shizuokao 17 6.40 0.94 376 16 7 3 1 2
23 Aichi 36 4.73 0.68 953 37 22 3 4 5
24 Mie 7 2.85 0.67 151 2 1 0 1 1
25 Shiga 6 5.99 0.60 148 1 1 1 3 4
26 Kyoto 10 10.44 1.35 218 13 15 5 0 0
27 Osaka 41 6.30 1.14 1242 80 53 17 3 6
28 Hyogo 20 5.68 0.83 484 32 16 2 1 7
29 Nara 4 4.16 0.39 70 1 1 0 1 0
30 Wakayama 4 5.26 0.68 65 1 0 0 0 0
31 Tottori 2 3.87 0.26 59 0 2 0 0 0
32 Shimane 2 0.93 0.16 60 0 0 0 0 0
33 Okayama 8 3.92 0.33 184 3 1 0 0 1
34 Hiroshima 11 4.12 0.67 264 12 3 2 0 0
35 Yamaguchi 6 6.07 0.70 114 3 2 0 1 0
36 Tokushima 3 4.83 0.77 52 1 0 0 0 0
37 Kagawa 4 3.51 0.38 117 3 1 0 0 0
38 Ehime 5 4.31 0.22 117 0 1 1 0 1
39 Kochi 2 2.33 0.35 37 1 0 0 0 0
40 Fukuoka 18 3.50 0.44 305 8 2 1 3 0
41 Saga 3 2.09 0.53 78 1 1 0 0 0
42 Nagasaki 4 3.03 0.40 57 0 0 0 0 0
43 Kumamoto 5 1.01 0.42 107 2 0 0 0 0
44 Oita 5 0.44 0.13 71 1 0 0 1 0
45 Miyazaki 4 1.70 0.26 60 0 0 0 1 0
46 Kagoshima 5 0.22 0.20 77 0 0 0 1 1
47 Okinawa 3 3.02 0.01 43 0 2 0 0 0
文献