ノンテクニカルサマリー

研究開発に対する支援とリンケージ構築に対する支援: 中小企業に対する支援のより良いポリシーミックスを求めて

執筆者 鈴木 潤 (政策研究大学院大学)
研究プロジェクト 産業のイノベーション能力とその制度インフラの研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

イノベーションプログラム (第四期:2016〜2019年度)
「産業のイノベーション能力とその制度インフラの研究」プロジェクト

近年のイノベーション政策は、いくつかの政策ツールをパッケージにした“ポリシーミックス”として設計され評価されることが多くなりつつある。すなわち、研究開発優遇税制や研究開発補助金による大型のナショナルプロジェクトのような、単独の政策ツールの効果の議論には限界があることが認識され、より総合的・長期的な政策の効果を分析することが求められているのである。OECDによれば、イノベーション政策はより具体的なターゲットを設定する方向へ、またより需要サイドの政策を重視する方向へと変化しつつあるという。

また、米国の研究者は過去30年以上にわたる重要なイノベーションの源を分析した結果から、大企業よりも中小企業の貢献度が増し、組織間のコラボレーションの貢献度が増し、そして政府による支援の貢献度が増しつつあることを報告している。このような状況下において、中小企業に対する政策的サポートをどのように行うのが効果的であるのかという問いは、日本のみならず全ての地域の政策担当者や政策研究者にとって最も重要な研究課題の1つであろう。

本研究では、新世代の中小企業支援ポリシーミックスである経済産業省の「サポーティング・インダストリー(通称:サポイン)」プログラムを取り上げた。サポインは、2006年に開始された2段階選抜方式を特徴とする公募型の中小企業支援策であり、ものづくりを裾野から支える基盤的な製造技術の開発と実用化をターゲットとしている。

中小企業は国や地域から得られるソフト支援(マッチングや仲介、コンサルティングなど)を活用して、大学や公設試、下流企業などをアドバイザーとして招聘してコンソーシアムを形成し、研究開発プロジェクトの計画を策定して応募する。第1段階の選抜で経産省から計画の認定を得たプロジェクトは、低利融資枠や特許料減免などのメリットとともに、第2段階の補助金申請の権利を得る。その後、第2段階の選抜で選ばれたプロジェクトは、最大3年間の補助金を受けることができるという仕組みである。本研究では特許データを用いて、中小企業の研究開発活動に対する補助金の効果と、中小企業によるリンケージ構築に対するソフト支援の効果という観点から分析を行った。

得られた結果が示唆しているのは、リンケージ構築などに対するソフト支援が広範なインパクトを持つのに対して、補助金の直接的なインパクトは限定的なものにとどまっているかもしれないという事であった。実は、ほぼ同様の結果は国内外のクラスター政策などを分析した研究でも報告されている。これは一見、経産省が実施しているサポイン追跡モニタリング調査の結果(=ほとんどの補助金受給企業が研究開発の進展を報告し、一部の企業では早期製品化に伴う売り上げも報告されている)とは矛盾する結論のように思えるかもしれないが、実はそうではない。中小企業にとってはサポインの認定を獲得したということが重要なのであって、補助金そのものには(たとえ獲得したとしても)追加的な効果はあまりないということを示唆しているのである。実際、認定や補助金の前後での企業の特許出願行動を見ると、そのピークは認定の前年(-1年)ころから始まって3〜4年程度継続しており、その傾向は補助金受給企業でもほとんど差がないことがわかる(図)。

図:サポイン参加企業の特許出願行動
図:サポイン参加企業の特許出願行動

それでは補助金には本当に意味はないのであろうか? 筆者はそんなことはないと考えている。サポインの本来のターゲットは、中小企業の意欲を刺激し、独自のイノベーションに向けた取り組みを誘発することだろう。サポインプログラム全体は、当選率(補助金受給率)が決して高くはないが企業にとって「参加することに意義がある」コンテストのようなものであり、補助金はコンテストへの参加を促すために大きな役割を果たしているのではないだろうか。現在の補助金額は、補助率と使用した研究開発経費に応じて上限が決められていると思うが、コンテストの賞金として考えるのならこのような手続きを省略して定額にするのも一案かもしれない。かつて米国のNSFは予算制約の下で公募型補助金の供与件数を減らさざるを得なかったが、一件あたりの補助金額を大きくすることにより、研究者からの応募の意欲を逆に増加させることに成功している。

サポインプログラムでは、原則として外部の管理法人が補助金の申請者になり、プロジェクトのコーディネーションやモニタリングを担う体制の構築を求めている(実際には補助金受給者が自社で管理法人を兼任しているケースが17%程度存在する)。外部管理法人は多くの場合、地域の産業振興センターや財団、TLOなどが担っている。この仕組みは、地域ぐるみのソフト・サポートを活用し、同時にコンテスト参加者から質の悪いプロジェクトを排除するために非常に有効であると考えられるため、外部法人の利用を義務化するとともに、国としてはソフト・サポートのサポートを充実させることも検討するべきであろう。それは、サポインのもう1つのターゲットである、組織間リンケージの構築にも寄与するはずである。