ノンテクニカルサマリー

生産性上昇を伴わない労働コスト増加が労働市場にもたらす影響:日本における2003年の総報酬制導入を自然実験として用いた分析

執筆者 児玉 直美 (コンサルティングフェロー)/横山 泉 (一橋大学)
研究プロジェクト 日本企業の人材活用と能力開発の変化
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

人的資本プログラム (第四期:2016〜2019年度)
「日本企業の人材活用と能力開発の変化」プロジェクト

日本の税・社会保険料の国民負担率(税・社会保険料の国民所得に占める割合)は40%を超えている(下図参照)。これは諸外国に比べて特別に高いわけではない。税については、国際競争力などの観点から、それほど上がっているわけではないが、少子高齢化の進展に伴い、企業の社会保険料負担は年々増大している。

本稿では、社会保険料負担が雇用、労働時間、支払賃金に与える影響を分析する。日本の場合、社会保険料は原則、全国一律で設定されているため効果分析は難しいが、我々は、2003年の総報酬制導入(保険料の徴収ベースを月給から、ボーナスを含む総報酬に変更)を自然実験として利用することでその効果を測定した。その結果、社会保険料負担増は、雇用減少、平均労働時間の増加とそれに伴う平均年収の増加を引き起こした。雇用減少と平均年収増加が相殺し、企業の支払総賃金は変化しなかった。つまり、雇用継続された労働者は労働者負担分の社会保険料増加を労働時間増で賄い、その増加分は、雇用削減で企業は吸収した。企業負担分の社会保険料負担増加は企業が支払った。我々の分析結果は、生産性上昇を伴わない労働コスト増加は雇用を減らす可能性があることを示唆する。

図:各国の税・社会保険料の国民負担率
図:各国の税・社会保険料の国民負担率
資料:国税庁HPの情報を基に筆者作成。