ノンテクニカルサマリー

競争、不確実性、および資源の非効率配分

執筆者 細野 薫 (ファカルティフェロー)/滝澤 美帆 (東洋大学)/山ノ内 健太 (慶應義塾大学)
研究プロジェクト 企業成長のエンジンに関するミクロ実証分析
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業・企業生産性向上プログラム (第四期:2016〜2019年度)
「企業成長のエンジンに関するミクロ実証分析」プロジェクト

企業間における資源配分の問題が近年注目されるようになっている。シンプルに考えると、生産性の高い企業が規模を拡大し、生産性の低い企業が縮小した場合、資源配分は効率化され、経済全体が成長する。経済が競争的であれば、一定の条件の下で効率性は確保され、企業間資源配分は最適化される。

海外の研究では、中国やインドに比べてアメリカの企業間資源配分は比較的効率化されていることが明らかにされている(Hsieh and Klenow, 2009)。しかし、一方でアメリカや日本のような先進国であっても企業間の資源配分は効率的ではなく、資本や労働といった生産要素を再配分することで、経済全体の生産性は大きく改善することも示されている(Hopenhayn (2014) によるサーベイ参照)。企業間資源配分を歪めると考えられる要因は多岐にわたるが、その有力な候補の1つは不確実性である (Asker et al., 2014)。すなわち、企業が生産性や需要に関して大きな不確実性に直面し、事業環境が大きく変動すると、資本のように調整にコストのかかる生産要素は静学的な意味での最適な水準から大きく乖離してしまうが、企業は動学的には最適化を行っている可能性がある。そのため、不確実性を所与とすると、政府の介入する余地は小さく、資本の限界生産物価値から測定した資本価格の歪みは過大に評価されてしまう。他方、政府自身が不確実性に影響を与えうる場合には、資源配分を改善する余地が生じる。

本論文では、日本の工業統計調査を用い、不確実性が静学的な意味での資本の事業所間配分の効率性に与える影響を分析した。また、この不確実性の影響が製品市場における競争とどのように関係しているかも明らかにする。競争の激化は直接的に企業間資源配分を改善するといわれるが、不確実性への影響を通して静学的な観点での資源配分を悪化させている可能性もあり、本研究の結果は競争政策に関しても含意を与えることができる。

図1は産業・年レベルの不確実性と資本の配分非効率性の関係を示したグラフである。不確実性は事業所レベルの収入生産性の対数値の対前年差について、産業レベルの標準偏差を取って表している。また、資本の配分非効率性は、事業所レベルの資本の限界生産物価値(資本の限界的な追加による生産額の増加分)の対数値を産業レベルの標準偏差に集計したものである。図1が表すように、不確実性と資本の配分非効率性には正の相関関係があり、事業所が大きな不確実性に直面する産業・年では、資本が最適な水準から大きく乖離していることが示唆されている。

表1は回帰分析による結果である。表1の(1)から、図1において示された関係は、産業と年の固定効果を考慮しても成立することが分かる。また、(2)は競争が激しくマークアップ率の低い産業においてのみ不確実性が資本の配分効率性を悪化させていることを示している。この結果は、競争の激しい産業では最適な企業規模が生産性に強く依存するため、生産性の変動が大きければ最適な資本も大きく変動することとなり、資本が最適な水準から乖離しやすくなると解釈できる。さらに、(3)と(4)から、これらの関係は、前年における資本の配分非効率性を考慮しても成立するといえる。

本研究の結果、日本においても不確実性は静学的な観点での資源配分を歪める要因となっていることが明らかとなった。さらに、競争が激しければ不確実性の効果が大きく現れることが示された。競争の激化は直接的に企業間資源配分を改善するといわれるが、不確実性の影響によって間接的には静学的な意味での資源配分を悪化させる可能性もある。不確実性を所与とするならば、限界生産物価値から非効率性を推定する手法は、競争の激しい産業で誤った結論を導きやすい。競争の激しい産業では動学的に最適化を行っている企業も、資本の静学的な最適水準からは大きく乖離している可能性が高く、資本の再配分の余地が過大に評価されてしまいやすい。

その一方で政策によって不確実性を変えられるのであれば、本研究の結論は政策的に大きな意味を持つ。すなわち、競争の激しい産業では不確実性の及ぼす影響は大きく、不確実性を減少させることで競争的な産業の資源配分は大きく改善される。競争を促進する政策を進めるうえでは、不確実性を高めないよう配慮するのが資源配分の観点からは望ましい。

図1:不確実性と資本の配分非効率性
図1:不確実性と資本の配分非効率性
表1:回帰分析結果
従属変数:資本の配分非効率性
推定方法 (1)
OLS
(2)
OLS
(3)
GMM
(4)
GMM
不確実性 0.0242***
(2.643)
0.0160*
(1.664)
不確実性*マークアップ率
第1四分位ダミー
0.0446***
(2.857)
0.0316*
(1.668)
不確実性*マークアップ率
第2四分位ダミー
0.0157
(0.663)
0.0202
(1.412)
不確実性*マークアップ率
第3四分位ダミー
0.00961
(0.471)
0.0324
(1.474)
不確実性*マークアップ率
第4四分位ダミー
0.0128
(0.826)
-0.00710
(-0.550)
前年の資本配分非効率性 0.450***
(12.52)
0.450***
(12.62)
観測数 11,131 11,131 10,278 10,278
修正済み決定係数 0.066 0.066
固定効果 産業+年 産業+年 産業+年 産業+年
産業数 423 423 423 423
括弧内はt値である。
*** p<0.01, ** p<0.05, * p<0.1
参考文献
  • Asker, J., A. Collard-Wexler, and J. De Loecker (2014) "Dynamic Inputs and Resource (Mis) Allocation." Journal of Political Economy, 122 (5), 1013-1063.
  • Hopenhayn, H. A. (2014) "Firms, Misallocation, and Aggregate Productivity: A Review." Annual Review of Economics, 6, 735-770.
  • Hsieh, C.-T., and P. J. Klenow (2009) "Misallocation and Manufacturing TFP in China and India." Quarterly Journal of Economics, 124 (4), 1403-1448.