ノンテクニカルサマリー

為替レートとスイス経済

執筆者 THORBECKE, Willem (上席研究員)/加藤 篤行 (金沢大学)
研究プロジェクト East Asian Production Networks, Trade, Exchange Rates, and Global Imbalances
ダウンロード/関連リンク

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

マクロ経済と少子高齢化プログラム (第四期:2016〜2019年度)
「East Asian Production Networks, Trade, Exchange Rates, and Global Imbalances」プロジェクト

スイスの産業構造は先進的で、輸出に依存しており、世界金融危機以降、為替レートは大幅に変動している。それゆえスイスと日本には多くの共通点があるといえる。

2001〜2014年に実施された2つの異なる方法での評価によると、スイスの輸出品は世界でもっとも高度であることがわかった。また、2014年のOECD分類では、スイスの輸出全体の53%がハイテク財に分類された。こうした高度な製品を輸出する経済に為替レートはどのような影響を及ぼすのだろうか。

回帰分析の結果、為替レートは輸出全体に影響を与えることはないが、貿易相手国の実質GDPは輸出に影響することがわかった。為替レートと輸出の関係をより詳細に調べるため、消費財、資本財、医薬品、時計などの細分類について為替レートで回帰を行った。医薬品と時計はどちらも極めて高度で研究集約型の製品である。表1が示すように、為替レートは医薬品と時計の輸出には影響しないが、消費財と資本財の輸出には影響を与えている。貿易相手国のGDPは、消費財、資本財、医薬品の輸出に影響を及ぼす。表1の結果は、スイスの輸出のうち、もっとも高度な製品は激しい価格競争に直面することはないが、より高度ではない資本財などの製品は価格競争にさらされることを示している。こうした分析結果は、為替レートのパススルー(価格転嫁)の検証からも裏付けられる。スイスフランが上昇しても時計の輸出価格に影響はないが、他の製品の輸出価格は下落する(表2参照)。

さらに本稿では、為替レートの変動がスイスの株式利回りに与える影響についても調査した。その結果、スイスフランの上昇は、金融サービス部門、小売部門、工業用機械、さまざまな工業製品の株式に著しい悪影響を及ぼすことが示された。他方、医薬品部門、専門小売部門(スイスアーミーナイフの製造など)は為替レートの変動に反応を示していない。このことは、高度な製品を製造している企業が為替レートの変動によって受ける影響はより小さい、という我々の研究結果を裏付けている。

表1:為替レートとスイスの実質輸出
  (1)
全製品
(2)
時計
(3)
医薬品
(4)
消費財
(5)
非医薬品
(6)
資本財
2国間実質為替レート -0.44***
(0.12)
0.23
(0.15)
-0.27
(0.19)
-0.32***
(0.12)
-0.36***
(0.14)
-0.61***
(0.13)
輸出相手国の実質GDP 0.41
(0.30)
0.71*
(0.41)
2.96***
(0.42)
1.97***
(0.27)
0.60*
(0.32)
1.15***
(0.32)
(注)輸出相手国(14カ国)のGDPは単位労働コスト(ULC)で実質化。***, *は、それぞれ有意水準1%, 10%。
表2:為替レート変動がスイスフラン建て輸出価格に及ぼす効果
部門 係数合計 標準誤差
全製品 -0.40* 0.23
時計 -0.29 0.27
資本財 -0.37** 0.15
精密機械、時計、宝石 -0.42* 0.23
衣服 -0.49 0.39
耐久消費財 -0.50* 0.27
食品 -0.75*** 0.13
(注)係数は名目実効為替レート変動の輸出財価格への累積効果。***, **, *はそれぞれ有意水準1%, 5%, 10%。