ノンテクニカルサマリー

再生可能エネルギー電源の影響評価-わが国の電力市場におけるシミュレーション分析-

執筆者 吉原 啓介 (東京大学)/大橋 弘 (ファカルティフェロー)
研究プロジェクト 新しい産業政策に係わる基盤的研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業フロンティアプログラム (第四期:2016〜2019年度)
「新しい産業政策に係わる基盤的研究」プロジェクト

再生可能エネルギーは、発電時に温室効果ガスを排出しないことに加え、資源の乏しいわが国のエネルギー自給率向上にも寄与しうる。また、地域に密着したエネルギー源であることから、地域活性化にも一定程度の貢献が見込まれる。本稿では、公開データを用いて、2030年において再生可能エネルギー電源の更なる導入が電力市場に与える影響を定量的に評価した。電力量(kWh)市場における均衡を算出可能なシミュレーションモデルを構築し、長期エネルギー需給見通しに示されたシナリオに基づいて分析を行った。再生可能エネルギー電源の更なる導入は、2030年においてkWh市場価格の低下、燃料費および二酸化炭素(CO2)排出量の減少をもたらす反面、火力発電所の稼働率を大きく低下させ、ベース電源である石炭火力発電所の採算性を大きく悪化させることが明らかになった(図1)。

太陽光や風力発電のような自然変動電源に対しては、バックアップとして負荷追従性に優れた火力発電所を最低出力で待機させておく必要がある(Mothballingと呼ばれる)。こうした電源の運用は、自然変動電源の出力変動に対応するために不可欠であるものの、火力発電所の稼働率を低下させ、発電電力量から収入を得るような従来の市場メカニズムの下では十分な固定費用の回収が困難になる。また限界発電費用の低い再生可能エネルギー電源の更なる導入は、kWh市場での価格低下をもたらすため、現在稼働する火力発電所の多くがkWh市場からの収入だけでは固定費用の十分な回収が見込めなくなることが示された。

2016年11月には地球温暖化対策の新しい国際ルールである「パリ協定」が発効し、わが国も温室効果ガスの大幅な削減が求められているなかで、CO2排出に対する国内外の規制が更に強まっていけば、新規電源投資の減退や既存発電所の撤退などを通じて、わが国全体で必要となる供給力が維持できなくなる恐れもあながち否定できない。こうした状況に対応して、電源の固定費用を回収するシステムを求める声があるものの、発電所毎に限界費用と固定費用の相対的なレベルが異なることを念頭に置くと、単純な市場メカニズムの導入だけでは、電源毎の採算性に大きな分散が生じてしまうことは避けがたい。市場と規制とをうまく織り交ぜた電力システムの改革が求められる。

図1:火力発電所の稼働率
図1:火力発電所の稼働率