ノンテクニカルサマリー

日本企業における特許出願が生存率に与える効果の実証分析 ~オープンイノベーション時代の創造的破壊に関する一考察~

執筆者 池内 健太 (研究員)/元橋 一之 (ファカルティフェロー)
研究プロジェクト 日本型オープンイノベーションに関する実証研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

イノベーションプログラム (第四期:2016〜2019年度)
「日本型オープンイノベーションに関する実証研究」プロジェクト

現代は「オープンイノベーションの時代」と言われ、企業内の資源のみならず、他企業や大学など他の組織との連携などを通じて外部の資源を効果的に活用していくことが、企業の研究開発活動の成否や持続的な成長にとって重要であるとの認識が産業界のみならず政策担当者の間でも常識になりつつある。しかしながら、オープンイノベーションへの取り組みが企業の存続・成長にどのような影響をもたらすかを実証的に分析した先行研究は数少ない。そこで本研究では、2001年および2006年の「事業所・企業統計調査」(総務省)および2012年の「経済センサス(活動調査)」(総務省)の企業レベルの個票データを特許の出願人に接続したデータセットを用いて、特許の共同発明や共同出願に関する情報から捉えたオープンイノベーションへの取り組みが企業の生存率(存続率)に与える影響について分析を行った。

本研究では特に、2001年時点および2006年時点で設立後5年以内の若い企業に注目し、それぞれ2006年時点および2012年時点での生存の有無の状況を分析した。約500万社の全企業のうち、分析に用いた設立後5年以内の若い企業は2001年時点で約80万社、2006年時点では約66万社である。特許データとしては、1964年1月から2014年3月までの情報が収録されている最新版の「IIPパテントデータベース2015年版」(知的財産研究所)を用いた。特許データの出願人の名称および住所情報と「事業所・企業統計調査」および「経済センサス」の名簿に収録されている各企業の企業名および事業所の住所情報を用いて、両データを接続した。

本研究の主な分析結果は次のとおりである。
(1) 特許出願をしている企業は特許出願のない企業と比べて生存率が高く、特に出願から早期に登録された特許出願がある場合に生存率が顕著に高くなる(図1)。
(2) 大学や企業との特許共同出願があると企業の生存率が高くなるが、規模の大きい企業ほど、他企業や大学との共同出願の影響が強くなる(図2)。

これらの結果は、イノベーションに積極的なハイテク・スタートアップ企業の参入を促進することが政策目標として妥当であることを示唆している。しかしながら、本研究の分析結果によれば、小規模な企業では大学や他企業との連携は生存率との関係はほとんど見られず、オープンイノベーションは常にポジティブな影響につながる訳ではないことに注意が必要である。本研究の分析結果は、比較的規模の大きい企業のイノベーション活動における企業間の連携および産学連携を促進する政策の妥当性を示すとともに、小規模企業の他企業や大学との外部連携の効果を高めるような政策の必要性を示唆していると考えられる。

最後に、本研究には今後に向けたいくつかの課題もある。本研究では日本のデータのみを用いて分析を行っており、分析の結果が日本固有の状況を反映しているのかは定かではない。また、本研究では特許出願やオープンイノベーションへの取り組みがスタートアップ企業の生存率に与える効果に注目して分析を行ったが、企業の成長に与える効果も含めた分析を行うことで、より有益な政策的含意が得られることが期待される。今後、国際比較可能なデータセットを構築し、オープンイノベーションへの取り組みが企業の存続や成長に与える効果について、日本の取引慣行や制度の特殊性を踏まえた国際比較分析を進めることが重要であろう。

図1:特許出願が企業の生存率に与える効果の期待値
図1:特許出願が企業の生存率に与える効果の期待値
図2:他企業および大学との特許の共同出願が企業の生存率に与える効果の期待値
図2:他企業および大学との特許の共同出願が企業の生存率に与える効果の期待値