ノンテクニカルサマリー

クロスボーダー垂直統合と企業内貿易: 日韓の企業データからの新しいエビデンス

執筆者 田 賢培 (西江大学)/許 晶 (西江大学)/金 榮愨 (専修大学)/権 赫旭 (ファカルティフェロー)
研究プロジェクト 東アジア産業生産性
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業・企業生産性向上プログラム (第四期:2016〜2019年度)
「東アジア産業生産性」プロジェクト

ここ10年のローバル経済における注目すべき事実の1つは、アジア地域に端を発する多国籍企業の役割が増大していることである。多国籍企業はグローバルサプライチェーンの中で投資と貿易の両方を行うグローバル企業である。多国籍企業はしばしば、生産費用を削減するため、国内製造工場を海外に再配置している。

しかしながら、海外子会社を持つ多国籍企業は、国際間取引において運送費、時間のロスや制度的な費用などを支払わなければならない。このような費用の存在は企業内貿易のインセンティブを減少させるかもしれない。それゆえに、親企業と海外子会社の間の取引は期待した程度より少なくなっているかも知れない。この推測は最近アメリカの多国籍企業のケースで確認された。垂直的な関係にあるアメリカの親企業と子会社の間の企業内貿易は驚くほど少ないことが発見されている。本論文では、日本と韓国において垂直的な関係にある親企業と子会社間で企業内貿易が行われているか、それはどの程度かどうかについて調査する。アジア地域を代表する2つの国を対象とする分析は、両国が製造業立国としてもアジアにおいて代表的な役割を担っているため、特に意義がある。また、日本と韓国の比較は、日本の多国籍企業が1980年代において海外直接投資を通じて既にグローバル市場に進出していた一方、韓国の多国籍企業は1990年中盤にアジア地域でサプライチーンを確立し始めたグローバル市場の新規参入者であり、企業のグローバル化の段階が異なることも重要なポイントである。

本論文は2010年の国内と海外の企業内取引に関する企業レベルのデータを用いて、日韓の製造業におけるクロスボーダー垂直統合と企業内貿易について2つの事実を提示する。第1に、親企業と子会社の間の企業内貿易は、少数の規模が大きい多国籍企業に極端に集中している(以下の図表参照)。第2に、親企業の産業と子会社の産業間の投入・産出係数は親企業と子会社間の企業内貿易とは弱い相関を持っている。さらに、2つの事実は国内の垂直的な関係にある企業でも観察された。

上記のように両国の間に類似性が存在するが、差異も観察される。第1に、企業内貿易と取引に与える企業規模の効果は日本より韓国の方が強い。これは韓国経済がまだ大きな財閥企業によって支配されているであろうことを示唆する。第2に、親企業と海外子会社間の企業内貿易の少なさは日本より韓国でより明確である。これは国際間取引費用が日本企業より韓国企業にとって重要な要因であるためという可能性が高い。第3に、親企業と国内子会社の間の取引の少なさは韓国より、日本についてより著しい。この結果は日本の国内子会社が韓国の国内子会社より独立的であることを示しているといえよう。日本の子会社は親企業のパフォーマンスと成果に影響を受けず、独立的に運用されているが、韓国の国内子会社は親企業の影響をまだ受けているといえる。

我々の主要な結果は、多国籍企業の費用節減動機の伝統的な観点に疑問を投げかけ、クロスボーダー垂直統合の動機に関してさらなる研究が必要であることを示唆するものであり、海外進出支援にかかる政策を検討するにあたっては、企業が海外へ進出する動機と進出後の行動について明確に理解する必要があろう。

企業内貿易:韓国と日本企業(2010)
親会社‐海外子会社
韓国 (A)
全企業
(B)
貿易が正の企業
(B)/(A) トップ5 トップ10 トップ50 トップ100
海外子会社へ輸出 1,078 440 0.40 0.77
(0.29)
0.85
(0.37)
0.96
(0.51)
0.98
(0.56)
海外子会社から輸入 1,078 311 0.29 0.77
(0.18)
0.84
(0.29)
0.96
(0.43)
0.99
(0.47)
企業内貿易 1,078 481 0.45 0.74
(0.29)
0.83
(0.37)
0.95
(0.52)
0.98
(0.58)
日本 (A)
全企業
(B)
貿易が正の企業
(B)/(A) トップ5 トップ10 トップ50 トップ100
海外子会社へ輸出 1,420 876 0.62 0.48
(0.10)
0.59
(0.14)
0.84
(0.27)
0.92
(0.34)
海外子会社から輸入 1,420 789 0.56 0.45
(0.06)
0.56
(0.09)
0.79
(0.16)
0.87
(0.23)
企業内貿易 1,420 1,006 0.71 0.42
(0.11)
0.54
(0.15)
0.80
(0.29)
0.89
(0.35)