ノンテクニカルサマリー

輸出と外国直接投資の決定:日本の外資系企業からのエビデンス

執筆者 Ivan DESEATNICOV (筑波大学)/Konstantin KUCHERYAVYY (東京大学)
研究プロジェクト 東アジア産業生産性
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業・企業生産性向上プログラム (第四期:2016〜2019年度)
「東アジア産業生産性」プロジェクト

自国から相手国市場までの距離が離れるにつれて、対外直接投資(FDI)が減少するのは何故だろうか? 本稿はこの問題について、距離を貿易コストの代理指標とみなして分析した。

市場との距離とFDIの関係は理論的観点からは自明ではない。両者の関係に関してはいくつかの対立する仮説がある。第1に、伝統的な近接-集中仮説の枠組み(Helpman, Melitz, Yeaple, 2004)によれば、FDIと貿易は代替財であり、どちらが選ばれるかは企業の生産性の違いで説明される。この場合、FDIは輸出が増えるにつれて減少し、距離が増すにつれて増加すると考えられる。第2に、親会社が子会社に対して中間投入財を輸出している場合、FDIと貿易は補完財としても機能しうる(Irarrazabal, Moxnes and Opromolla, 2013)。この場合、距離はFDIと輸出双方に対して負の影響を与えるだろう。Kiyota and Urata (2008)は、日本のFDIの研究において、同様の結論に至っている。第三の立場、Conconi, Sapir and Zanardi (2016)の仮説は、我々の見方に最も近いものだが、企業は輸出を通じて外国市場における自社製品への需要状況を知り、需要が有望であればFDIを行うと想定する。 この場合、距離が増すにつれて外国市場への実験的な輸出が高価になるので、FDIは減少することになる。

企業がある地域にFDIを行う場合には、その地域への輸出がしばしば先行する。本研究は、これがなぜなのかを理論的および計量的に分析した。輸出による学習メカニズムにおける貿易コストの役割を示し、貿易コストの重要性を計量的に明らかにすることが我々の目的である。

FDIと輸出の動態

我々の研究は日本企業の国際行動を分析するものであり、製造業に焦点を当てている。 我々の分析によれば、過去にその地域に輸出を行ったことのある企業によるFDIは、FDI全体の70%を占めている(表1参照)。この数字はConconi et al. (2016)が報告するベルギー(85.9%)の値より低いが、Gumpert, Moxnes, Ramondo, Tintelnot (2016)のノルウェー(49%)やフランス(15%)の値よりずっと大きい。

表1:FDIと輸出の動態
FDI企業 輸出経験を持つ企業によるFDI 輸出経験を持つ企業によるFDIのシェア 輸出企業 FDIの経験を持つ企業の輸出 FDIの経験を持つ企業による輸出のシェア
Total 5,093 3,554 0.70 27,106 2,863 0.11

FDIの収益性と輸出経験

日本の多国籍企業のFDIにおいて、輸出による学習は重要な役割を果たしていると考えられる。一般に、多国籍企業は、まず輸出によって外国市場の可能性を学習した後、期待収益率が十分高ければ、外国子会社を設立するという戦略をとっている。このため、市場との距離は多国籍企業が外国市場の可能性を見出す能力を制限する可能性がある。

我々はこうした問題を理論モデルで明らかにし、日本の企業レベルデータを用いた実証を行った。ここで使用するデータは、日本の企業に関する2つの基本的な統計、企業活動基本調査と海外事業活動基本調査である。分析の対象期間は1995-2013年とする。

まず、我々は子会社の売り上げ、FDIフロー、多国籍企業の株価に対して、市場との距離が及ぼす効果を最小自乗法(OLS)で実証した。続いて、セミパラメトリック比例ハザードモデル(STCOX)を用いて、企業の輸出経験や市場との距離がFDIを行う確率に与える影響を検証した(表2参照)。我々の分析結果は、輸出経験がFDIを行う確率を上昇させる一方で、市場との距離は日本の多国籍企業のFDIに対して負の影響を与えていることを示すものである。このことから、貿易コストは、そのほかの理論的効果(輸出による学習や生産性効果)と同じく、日本の多国籍企業のFDIに影響していると結論できる。したがって、日本企業の行動の理論的、実証的分析や政策立案の際には、貿易コストの存在を考慮に入れた分析が望まれる。

表2:主な分析結果
子会社の売上 多国籍企業の株価 FDIフロー FDIを行う確率
OLS OLS OLS STCOX
国内総生産 0.351*** 0.237*** 0.859*** 0.545***
企業の就業者数 0.26 0.178** 0.348* 0.498***
企業の生産性 0.346*** 0.031 0.165 0.298***
市場との距離 -0.448*** -0.210*** -0.734*** -2.147***
輸出経験1ー2年 0.300**
輸出経験3+年 0.386***
備考: *,**,***のは 10%、5%、および1%レベルで有意であることを意味する。

政策上のインプリケーション

本稿の政策的観点から見た主なインプリケーションは、輸出とFDIに対する貿易コストの重要性を示した点にある。たとえば、日本政府が輸出促進政策をとった場合、この政策は、日本企業が外国市場の可能性を探るために被るコストを減少させるので、FDIを間接的に促進することにつながる。このことはとりわけ中小企業にとって重要である。中小企業は海外で活動するための高い費用を賄うことが出来ないからである。さらに、FDI促進政策は輸出を促進しうる。FDI促進政策はFDIの可能性を探るための外国市場での実験的な輸出の価値を高めることにつながるからである。日本の対内直接投資に関しては、我々の結果は輸入促進政策が日本の対内直接投資を増加させることをも示唆している。

参考文献
  • Conconi, Paola, Sapir, André and Maurizio Zanardi, 2016. "The internationalization process of firms: From exports to FDI," Journal of International Economics, vol. 99(C), pages 16-30.
  • Gumpert, Anna, Moxnes, Andreas, Ramondo, Natalia and Felix Tintelnot, 2016. "Multinational Firms and Export Dynamics," Working paper.
  • Helpman, Elhanan, Melitz, Marc J. and Stephen R. Yeaple, 2004. "Export Versus FDI with Heterogeneous Firms," American Economic Review, vol. 94(1), pages 300-316, March.
  • Irarrazabal, Alfonso, Moxnes, Andreas, and Luca David Opromolla, 2013. "The margins of multinational production and the role of intrafirm trade," Journal of Political Economy, vol. 121(1), pages 74-126.
  • Kiyota, Kozo and Shujiro Urata, 2008. "The role of multinational firms in international trade: The case of Japan," Japan and the World Economy, vol. 20(3), pages 338-352, August.