ノンテクニカルサマリー

個人特性、行動バイアスと移民に対する個人の態度:日本におけるサーベイからのエビデンス

執筆者 冨浦 英一 (ファカルティフェロー)/伊藤 萬里 (リサーチアソシエイト)/椋 寛 (学習院大学)/若杉 隆平 (ファカルティフェロー)
研究プロジェクト 中国市場と貿易政策に関する実証的研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

貿易投資プログラム (第四期:2016〜2019年度)
「中国市場と貿易政策に関する実証的研究」プロジェクト

モノにとどまらずサービスの貿易が拡大する一方で、海外直接投資による海外生産が進展し、グローバル化は世界経済を覆っている。しかし、移民への対応については、英国のEU離脱、米国におけるトランプ大統領の当選など、先進主要国で大きな争点となっている。翻って、我が国を見ると、移民を厳しく制限してきたが、長期にわたって生産年齢人口が大幅な減少を続ける中で、外国人労働力の活用が議論されている。そこで、我が国において、外国人労働者に対する個々人の意見などを調査した結果を用いて、個人特性との関係を定量分析することとした。

今回の分析に用いたデータは、RIETIが実施した調査で収集された個人データである。年齢、性別、地域構成の点で国勢調査に近くなるよう約1万人から回答を得ており、いわば日本の「1万分の1の縮図」ともいえるサンプルである。その結果によれば、今回の調査の場合は、外国人が日本に来て働くことに賛成する人が反対する人より多かった。ただ、賛成派は、「大いに賛成」だけでなく「どちらかといえば賛成」を含めても、半数には届かない。また、2割を超える回答者が、「どちらとも言えない、わからない」という選択肢を選んでおり、こうした人たちは積極的に現状を変革するとは考えにくいことから、外国人労働者・移民に関する規制緩和への支持は広がっていないと見るべきであろう。

図

この調査では、輸入自由化への賛否も併せて問うており、同じデータに基づいて、同じ個人が、モノとヒトのグローバル化に対してどのように異なる反応を示すのかも分析することができる。個人特性としては、業種、職種、所得、学歴、住所、年齢、性別などの基本情報に加え、宝くじの購買に関する質問により、個人のリスク回避、現状維持バイアスについての情報も収集しており、これらを説明変数とした回帰分析を行った。なお、輸入自由化への賛否に個々人の行動経済学的特性が影響することは、この調査データを用いて、本DP執筆者がTomiura et al. (2016)で見出している。

その推定結果によれば、先行研究でも報告されていた傾向(失業、学歴の影響など)が確認された他に、新たな発見があった。なかでも、リスクを回避する傾向が強い者は保護貿易を支持するのに対し、リスクがなくても現状維持を好むバイアスのある者は、輸入自由化にも外国人労働者にも反対する確率が有意に高い。また、外国人労働者に反対する者は、引越を嫌う、外国人の知り合いがいないなどの個人的特徴があることもわかった。

今回の調査における質問が、移民全般でなく外国人労働者であったため、経済的要因の説明力が強いと考えられたが、その場合でも、雇用・失業、賃金・所得だけでなくさまざまな心理的・社会的要素が有意な関係を有していることが明らかとなった。1回限りの調査から因果の方向性を特定したり代替的な仮説の可能性を排除したりすることまではできないが、こうした統計的な傾向が見られたことから、外国人労働力に関する規制緩和への支持を広げるためには、労働市場で直接に影響を受けると考えられる人たちへの所得補償といった経済学で伝統的に議論されてきた対策にとどまらず、政策選択に関与する国民全体について個々人の行動経済学的側面にも目配りした広範な施策が必要であることが示唆される。

参考文献
  • Tomiura, E., Ito, B., Mukunoki, H., and Wakasugi, R. (2016) "Individual characteristics, behavioral biases, and trade policy preferences: Evidence from a survey in Japan," Review of International Economics, Vol. 24(5), pp.1081-1095.