ノンテクニカルサマリー

日本における自動運転自動車の需要分析

執筆者 慎 公珠 (九州大学)/馬奈木 俊介 (ファカルティフェロー)
研究プロジェクト 人工知能等が経済に与える影響研究
ダウンロード/関連リンク

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業フロンティアプログラム (第四期:2016〜2019年度)
「人工知能等が経済に与える影響研究」プロジェクト

人工知能の研究はあらゆる形態で日常生活に適用されており、自動車産業にも波及している。特にドライバーを必要としない完全自動運転車に関しては、日本の主要自動車メーカーを含む各国の世界規模の大手自動車メーカーが技術開発に積極的に取り組んでおり、社会実験として完全自動運転が導入されている例はすでに数多く存在する。現在、発生している交通事故の約9割はヒューマンエラー(誤操作・不注意・判断ミス)によるもので、自動運転の導入によって排除できるとされている。また、日本の交通における課題の1つである渋滞緩和による年間損失額はおよそ12兆円とされているが、自動運転導入による削減の可能性が 注目されている。日本政府は、完全自動運転導入に積極的であり、政府目標とし2020年初頭に高速道路本線上の連続走行2020年以降の利用可能領域の拡大を掲げている。

近年、完全自動運転の受容性に関する調査が各国で行われているが、特に日本の消費者データはサンプル数が少ない上、統計学的な要因分析をした研究はない。本研究では、九州大学・都市工学研究室と株式会社デンソーが共同で、2015年11・12月実施した日本全国を対象とする大規模アンケート調査のデータ(回答者24万6642人)を使用して、消費者が完全自動運転に期待するメリットや不安要素などやその他世帯・個人属性が自動運転機能の購入意思と購入意思額に与える影響を統計学的に分析する。

消費者調査の分析結果によると、日本の消費者は完全自動運転が約13年後に登場すると予想しており、完全自動運転車の購入に意欲的なのは約半数ということがわかった。現在使用している車にオプションとしてつける形での購入に対する平均的な支払意思額は約19万であるが、購入意思の程度別に完全自動運転機能への支払意思額を見ると、「購入する」(28.5万円)、「購入を検討する」(22.5万円)、「購入しない」(13.4万円)であり、購入意思が高い消費者のほうが支払意思額も比較的高いことがわかる。

図1:完全自動運転車の購入意思(サンプル数:24万6642人)
図1:完全自動運転車の購入意思(サンプル数:24万6642人)
図2:完全自動運転車の購入意思額(サンプル数:24万6642人)
図2:完全自動運転車の購入意思額(サンプル数:24万6642人)

また、消費者が感じるメリットは「運転の負担の軽減」「自家用車のタクシー的利便性の向上」「運転免許が不要になり責任を問われないこと」の3分類であり、一方で、消費者が完全自動運転に感じる主なデメリットは「自動運転の不明瞭な点への不安」「情報の漏えい」「自動車に制限が生じる」の3分類であった。メリット・デメリット共に、高齢者の選択率が比較的高く、同グループの比較的高い支払意思額を加味すると自動運転に対する高齢者の期待と関心の高さが窺える。

購入意思および支払意思額の要因分析結果は、受容性は年収によって大きく左右されず、自動運転の考え方や移動の選好、および個人・世帯属性に影響されることを示唆している。特に、幼児が世帯にいる消費者、免許を保持していない消費者、移動中の自由度向上や渋滞・混雑の緩和による移動の質の向上を完全自動運転者に期待している消費者の受容性は比較的高い結果となった。また、自動車免許や自動車を保持・所有していない人々の受容性が比較的高かったことから、完全自動運転の導入によって、自動車の販売・利用拡大が予想される。

今回の調査から、 (1)企業と個人が想定する完全自動運転車の市場価格のギャップ、(2)消費者が機械の誤作動の危険性に非常に敏感であること、(3)消費者の情報漏えいに対する不安の3点が完全自動運転の受容性を促進するために対策が必要な課題として挙げられる。機械の誤作動による事故、事故時の対応の不明瞭性、情報漏洩対策などの改善に消費者が支払ってよいと思う金額は1人当たり1万円未満ではあるが、国全体での導入への期待や購入意思などを考慮すると、決して少額ではない。課題解決のためには、政策として完全自動運転購入の際に使用可能な補助金制度の検討や、市場価格を下げるための技術開発の投資が必要であると考えられる。調査・分析結果によると、完全自動運転車の受容性の向上と導入後の普及には、従来の事故削減や渋滞緩和というメリットの浸透とあわせて、安全性の強調や、関連の法整備を進めて導入時の混乱を最小化する姿勢を明確にすることが必要である。