ノンテクニカルサマリー

企業における多様な人材の活用:女性人材・外国人材に着目して

執筆者 高村 静 (コンサルティングフェロー)
研究プロジェクト ダイバーシティと経済成長・企業業績研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

人的資本プログラム (第三期:2011〜2015年度)
「ダイバーシティと経済成長・企業業績研究」プロジェクト

いわゆる日本型雇用慣行は、長期雇用、年功による処遇(賃金と昇進)、企業別労働組合の3点によって特徴づけられ、日本企業の強みとされてきた。この3つの特徴はそれぞれ補完的であって、長期勤続を前提にした企業内訓練による人材育成と内部労働市場の発達、生産性の高まりに応じた処遇、労使の協調という組合せには経済合理性が認められてきた。

しかし今日、企業の経営環境や人口動態も大きく変化し、長期勤続は必ずしも経済合理性を伴うとはいえない状況となってきた。高齢層の構成比の高まりによる年功制の賃金上昇圧力などに加え、勤続年数と能力の伸長との比例関係が弱まったことなどが大きな理由である。

実際に年功賃金の変質や労働組合の組織率の低下が観察されているが、勤続年数はどうだろうか。賃金構造基本調査によれば、主に長期雇用の対象となる男性正社員の平均勤続年数は13年前後で安定して推移しており、かつ今回分析に用いたデータによれば、産業間でも大きな差はみられず一定の水準内に収まっている。つまり日本型雇用慣行の特徴とされた上記3要素の組み合せのうち、長期雇用(勤続年数)については、一定の経済非合理性を内包しつつも現在も慣行として維持されているものと考えられる。

これは長期勤続が日本企業の組織文化の一部となり、従業員の規範を形作る基礎となっているとの指摘と一致する。しかし今日、長期間固定的なメンバーシップのもとで形作られてきた企業内コミュニティの文化が、組織の変革や多様な人材の活躍を阻害しているのではないかと指摘されている。過度に和を重んじる風土が組織の意思決定を難しくしたり、暗黙のルールが複雑化して部外者や新規参入者に理解困難なものとなっており、女性人材や外国人材の参入を阻んでいる可能性があるとの指摘である。

製造業および海外直接投資(出資比率50%超)の有無別に、男性社員の平均勤続年数と新卒採用3年目定着率、採用者新卒者比率、新卒採用者大学卒業者比率、平均賃金、ROAを図1に示した。これによれば、非製造業の海外直接投資ありの企業群では、大卒採用者比率と平均賃金が高く人材の高度化が進んでいる。この企業群は採用者に占める新卒者比率も低いことから雇用の流動化も他の企業群よりも進んでいると思われるが、そのような実際の人事管理の在り方の違いは男性従業員の平均勤続年数には表れていない。図2は前述の4区分別に、男性従業員の平均勤続年数ごとに従業員女性比率、従業員外国人比率、および管理職女性比率を示したものである。従業員外国人比率は非製造業の海外直接投資ありの企業群で相対的に高さが目立つが、ほぼ全てのケースにおいて、女性および外国人の比率は男性勤続年数が短いほど高い関係にある。

なおこれまでも長期勤続を前提とする硬直的な働き方が女性活躍を阻害していることが指摘されてきた。この点については今回の分析では、女性人材だけでなく外国人材の活躍にも影響することが確かめられた。

日本企業の男性従業員の間では長期勤続の特徴は大きな変化なく受け継がれているが、他の変化と合わせて考えるとすでに効率性を失っているが企業の規範として引き継がれており、組織の変革や新たな人材の参入・登用に対する阻害要因となっている部分がある可能性が考えられる。多様な人材の活用に向けた働き方の見直しとともに、暗黙のルールや仕事や昇進の機会の配分・評価の勤続年数基準などの規範の見直し自体が重要であろう。

図1:業態(製造・非製造)および海外直接投資の有無による人材関連変数
図1:業態(製造・非製造)および海外直接投資の有無による人材関連変数
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図2:男性勤続年数区分別多様な人材の活躍
図2:男性勤続年数区分別多様な人材の活躍
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