ノンテクニカルサマリー

日本のサードセクターにおける協同組合の課題:ビジビリティの視点から

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

特定研究 (第三期:2011〜2015年度)
「官民関係の自由主義的改革とサードセクターの再構築に関する調査研究」プロジェクト

サードセクターは公共セクター、民間営利企業セクターとならんで社会経済を構成する独立したセクターであるという点である種のコンセンサスが成立しているが、その範囲や意味づけにはさまざまな捉え方がある。アメリカではサードセクターは非営利セクターと同義語であるが、ヨーロッパではサードセクターは「社会的経済」と同一視され、その有力な構成部分として協同組合を含めている。本稿では協同組合をサードセクターに含める見地から、サードセクターにおける協同組合の課題を検討する。

第3回サードセクター調査で追加された「サードセクターと政治・行政の相互作用」の分析によれば、「行政からの設立時支援」を受けた組織の割合については、協同組合は13.8%とサードセクターの他の法人形態より少なかったが、信用組合、共済組合など規制業種の組織は3割台となっている。「行政から補助金・助成金等を受けた団体の割合」も協同組合は16.3%と全体としては低いグループに属するが、詳しく見ると生協の4.8%に対して、漁協49.1%、森組32.8%、共済組合23.8%、農協16.4%と大きなバラつきがある。「行政からの事業委託」「指定管理者制度」「バウチャー制度」で稼いだ団体の収入についても同様の傾向があった。「政治、行政に対するロビイング」についても協同組合は総じて低いが、農協、漁協、森組のロビイング指数はプラスだったの対して、他の協同組合ではマイナスであった。「行政への直接的働きかけがある」「政策・方針の実施、修正、阻止の成功経験がある」については国よりも自治体レベルで、他の協同組合よりも農協、漁協、森組で高いという結果であった。

日本の協同組合、とりわけ農協や生協は世界有数の規模をもつが、行政やメディア、世論におけるビジビリティ(可視性、認知度)が低いのは何故か、 2012年の国連・国際協同組合年においてもインパクトを与えることはできなかったのはなぜかという問いに対して、回答することが本稿の主題である。2011年12月に都道府県別・年代別にサンプルを割り付けて行われたインターネットによる「協同組合と生活意識に関するアンケート調査」によれば、「あなたは協同組合を知っていますか」という問いに対しては、「知っている」と答えた回答は36.4%にとどまった。また、「次の団体のうち、協同組合だと思われるのはどれですか」という問いに対する回答は、14.2%から72.7%まで大きなバラつきを示し、種別協同組合に対する協同組合としてのパーセプションにギャップがあることが分かった。

図:種別協同組合を協同組合であると認識している回答の割合(%)
図:種別協同組合を協同組合であると認識している回答の割合(%)

このように協同組合の認知度は低く、非営利組織論中心のサードセクター研究においてもしばしば無視されている。しかし、日本のサードセクターの発展のためには自立した協同組合セクターの存在と非営利組織との協働が不可欠であると考える。

サードセクターにおける協同組合のビジビリティが低い要因としては、各種協同組合が法律、産業政策によって制度的に分断され、異なる発展経路、政治志向、組織文化をもったことから、セクターとしてのアイデンティティが弱かったことが考えられる。

日本のサードセクターにおける協同組合の課題として、地域レベルでのサードセクター組織の間の協働の組織化と集約をすすめること、第2にマクロレベルでの包括的な統計を整備すること、第3に各種協同組合法を超える統一的な法制度を整備すること、第4にサードセクターを推進するためにも、協同組合についての総合的なシンクタンク、開発支援機関を確立することを提起する。

本稿の知見から導き出される政策的な含意について2点指摘する。
第1に、法律、産業政策によって制度的に分立している協同組合に関する行政の窓口を決定し、関連する省庁の連絡調整を進めるべきである。第2に、法人格の種別によって組合員の資格、事業の種類や行政とのかかわりが大きく異なる現状を改善していくことが必要である。縦割りの協同組合法制と参入規制のために協同組合の自由な設立や事業運営が阻害されていることは、結社の自由や法人形態間のイコールフッティングの観点から見れば望ましくない。法人制度の改革と事業規制の改革が相まって、市民が自由に組織形態を選択することができるような公共政策の改革が求められている。