ノンテクニカルサマリー

民間金融機関および政府系金融機関の活動に対する中小企業の評価―企業年齢による差異はあるか?―

執筆者 家森 信善 (ファカルティフェロー)
研究プロジェクト 企業金融・企業行動ダイナミクス研究会
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

新しい産業政策プログラム (第三期:2011〜2015年度)
「企業金融・企業行動ダイナミクス研究会」プロジェクト

民間部門および公的部門のいずれにおいても、企業のライフステージに応じて適切な金融支援を行っていくことが必要だとの認識は広く共有されるようになっている。そこで、本稿では、企業の発展段階に応じて、メインバンクおよび日本政策金融公庫に対する企業のニーズや評価などがどのように変化しているのか(あるいは、変化しないのか)を、2013年に実施したアンケート調査の回答結果(4635社の回答)を使って分析した。

具体的には、回答企業を創業時期に応じて6つの年齢層に分けて分析を行っている。まず、先行研究と同様で、本サンプルの若い企業は、全般的に、高齢企業(1989年以前創業企業)に比べて、売り上げを伸ばし、雇用を拡大し、利益も順調であり、金融機関との取引きも拡大している。

表1に示したように、創業1996年以降の若い企業では、メインバンクが「ない」との回答が4.3%〜8.2%と高い値となっている。さらに、実際にメインバンクからの借り入れがあるかどうかを見ると、若い企業では、メインバンクからの借り入れを行っていない企業も多いが、メインバンクから借り入れを行っている企業の場合にはメインバンクへの依存度が高く、企業とメインバンクとの関係は2極化している。ただし、メインバンクから借り入れている場合も、若い企業では、その借り入れに対する信用保証のカバー率が高い。この観点からは、信用保証制度が若い企業に対する資金の円滑な供給に寄与していることがわかる。

表1:回答企業の創業時期別のメインバンクの状況
創業時期 都市銀行等 地銀・第二地銀 信用金庫 信用組合 その他 メインバンクなし
1989年以前 30.3% 53.8% 12.6% 0.9% 0.2% 2.1%
1990 - 1992 29.5% 58.9% 8.4% 1.1% 0.0% 2.1%
1993 - 1995 33.8% 51.4% 14.9% 0.0% 0.0% 0.0%
1996 - 1998 34.5% 46.6% 13.8% 0.0% 0.0% 5.2%
1999 - 2002 37.0% 45.2% 9.6% 0.0% 0.0% 8.2%
2003年以降 37.0% 50.0% 6.5% 0.0% 2.2% 4.3%

また、若い企業との間での情報の非対称性が大きいために、金融機関は頻繁な面談をすることで情報を蓄積していくことが期待される。しかし、実際には、若い企業との取引には信用保証制度が利用されてしまい、メインバンクが接触頻度を高めているわけではなかった。日本公庫の担当者の訪問頻度は、メインバンク(民間金融機関)と比較すると、遙かに少ないが、企業年齢での頻度に違いが見られず、相対的には若い企業に手厚くなっている。

表2に示したように、高齢企業では、日本公庫からの借り入れの副次的な効果として、メインバンクやその他の民間金融機関からの借り入れを削減したり、民間と競合させて金利の低下を実現したりしているようである。逆に、高齢企業と比べると、若い企業では、「メインバンクからの借り入れが減った」との回答は少なく、「メインバンクからの借り入れが増えた」との回答が多い。さらに、若い企業では金利面での競合作用も少ないようである。メインバンク側に企業に関する定性情報が少ない段階では、日本公庫の融資が呼び水的に作用することがあるのに対して、すでに銀行との関係が確立している高齢企業では、そうした呼び水的な効果は乏しいのであろう。

表2:日本公庫からの借入の副次的な効果
1989年以前 1990 - 1992 1993 - 1995 1996 - 1998 1999 - 2002 2003年以降
① メインバンクからの借入が増えた 3.2% 8.3% 6.8% 12.5% 8.8% 14.3%
② メインバンクからの借入が減った 21.6% 6.3% 11.4% 12.5% 11.8% 14.3%
③ その他の金融機関からの借入が増えた 2.5% 6.3% 6.8% 8.3% 2.9% 7.1%
④ その他の金融機関からの借入が減った 15.0% 6.3% 9.1% 8.3% 8.8% 21.4%
⑤ メインバンクからの借入の金利が低下した 17.8% 8.3% 9.1% 8.3% 5.9% 7.1%
⑥ メインバンクからの借入の金利が上昇した 0.1% 0.0% 4.5% 0.0% 0.0% 0.0%
⑦ その他の金融機関からの借入の金利が低下した 15.0% 6.3% 13.6% 12.5% 8.8% 0.0%
⑧ その他の金融機関からの借入の金利が上昇した 0.2% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0%
⑨ 情報提供やアドバイスが経営の見直しや改善に役立った 19.3% 6.3% 22.7% 12.5% 11.8% 14.3%
⑩ ビジネスマッチングの参加を通じて新たな取引先を開拓できた 2.8% 0.0% 2.3% 4.2% 2.9% 0.0%
⑪ 融資姿勢や方針が安定していることから、経営計画が立てやすい 33.2% 25.0% 31.8% 29.2% 29.4% 14.3%

政府系金融機関を利用しない企業に、利用しない理由を聞いたところ、高齢企業では、メインバンクから十分に借りられているとの回答が85%を超えているが、創業時期1999年以降の非常に若い企業では、この数値は60%台にとどまっている。ここからも、高齢企業において、政府系金融機関と民間金融機関の融資が代替的傾向にあることが確認された。さらに、リーマンショックのような危機時においても、高齢企業では政府系金融機関の借り入れは民間借入と代替的な傾向が強く、若い企業では補完的である傾向が強い。こうした観点からは、政府系金融機関が創業期の若い企業に注力することは官民の役割分担として理解しやすいといえる。

また、政府系金融機関についての情報をどのように入手しているかでも、高齢企業と若い企業では差異がある。すなわち、高齢企業は、政府系金融機関の職員から直接情報を得ているのに対して、若い企業ではホームページの利用が相対的に多い。

公的金融に望むことをあげてもらったところ、企業年齢による差異はなく、「政府系金融機関等の融資枠・融資対象分野の拡大」と「政府系金融機関等の融資金利の引き下げ」が上位2項目となっている。一方で、政府系金融機関の利用方針について尋ねたところ、企業年齢に関係なく、「長期資金が借りられるので利用したい」と「安定的な資金調達先として利用したい」という選択をする企業が多い。

最後に、質問項目によっては、年齢に関して明確な傾向がないものも多かったことを指摘しておきたい。差異策を立案する際には、企業年齢に従って企業の金融ニーズは単純に変化するものではないという点に留意が必要である。