ノンテクニカルサマリー

正社員の労働時間制度と働き方-RIETI「平成26年度正社員・非正社員の多様な働き方と意識に関するWeb調査」の分析結果より

執筆者 戸田 淳仁 (リクルートワークス研究所)
研究プロジェクト 労働市場制度改革
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

人的資本プログラム (第三期:2011~2015年度)
「労働市場制度改革」プロジェクト

この研究では、正社員の働き方に関して議論が進んでいる中で、労働時間規制が適用除外される柔軟な働き方をしている人が、どのような働き方をしているかを把握することを目的とする。最近の議論でいえば、2015年の通常国会に上程された労働基準法改正案に盛り込まれた「高度プロフェッショナル制度」は、労働時間の規制(残業時間に対しては残業代を支払うなど)を除外したホワイトカラー・エグゼンプションを制度として導入する議論であり、働き方の議論が増えている中で、現状の制度の効果を確認しておくことは十分意義があるだろう。この研究では、Webアンケート調査の結果から、正社員の労働時間制度、特にフレックスタイム制度や裁量労働制など現行の制度を適用されている者の労働時間、賃金、満足度について把握した。

その結果をまとめると以下のようになる。

裁量労働制や事業場外労働のみなし労働時間制度などの適用を受けている労働者は、仕事の量を自分で決めることができるなど、より柔軟な働き方が可能な職務についていることがわかった。裁量度の高い仕事についている人ほどこうした労働時間制度を享受しているといえ、これはこうした柔軟な働き方を可能にする制度が本来目指しているところと合致する結果である。

柔軟な働き方を可能にするいくつかの制度が適用されることによる効果は以下の図にまとめられている。

図:労働時間制度がアウトカムに対する効果
アウトカム 労働時間 時間当たり賃金率 生活満足度 健康不安
裁量労働制
事業場外みなし労働時間制
フレックスタイム制
注)図中の符号は統計的に有意な場合のみ示している。+はアウトカムが大きくなることを意味し、-はアウトカムが小さくなることを意味する

裁量労働制の適用者について、週当たり労働時間は、非適用者と比較して長くなる傾向があるが、時間当たり賃金で見ると非適用者と比べて高まっており、労働時間が長くなった分賃金で補てんされている。裁量労働制について、確かに労働時間は長くなっているが、「残業代ゼロ」と呼ばれるように、残業代の支払いがなされず時間当たり賃金率が下がることが見られない。また企業側から見ても、労働時間規制が適用されないからといって単位当たりの労働コストを下げるといった行動は見られない。

また、フレックスタイム制度適用者は労働時間が短くなっている効果も見られる。フレックスタイム制度のような柔軟な働き方が認められると、労働者自身で、無駄な作業の見直しなど働き方の工夫を行うことにより労働時間の削減につながることがいえるだろう。

裁量労働制やフレックスタイム制度の適用を受けている者は生活満足度や健康不安に有意な差がなく、労働時間規制の適用を受けない働き方によって懸念されている健康不安などは統計分析の結果からは支持されない。

高度プロフェッショナル制度の導入に向けて、適用要件などが今後議論されるが、本研究が取り上げた柔軟な働き方を可能とする労働時間制度とは制度設計が大きく異なるので、本稿の結果がそのまま高度プロフェッショナル制度に適用されるとはいえない。しかし、現行制度においても、柔軟な働き方を可能にする制度による負の効果があまり検出されなかったことからも、制度設計を適切にすることにより負の効果を軽減させ、柔軟な働き方を可能にすることができる可能性があるので、その結果は高度プロフェッショナル制度にも適用されるであろう。また、高度プロフェッショナル制度についても、「残業代ゼロ」といった批判が繰り返され、負の側面が強調されているが、こうした負の側面も対応次第により可能な限り削減することができるため、負の側面を強調するのではなく、いかにすれば負の効果を削減できるといった議論をすべきであろう。