ノンテクニカルサマリー

顧客企業のアウトソーシングが調達元企業のパフォーマンスに与える影響

執筆者 乾 友彦 (ファカルティフェロー)/児玉 直美 (コンサルティングフェロー)
研究プロジェクト 企業成長のエンジンに関するミクロ実証分析
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業・企業生産性向上プログラム (第四期:2016〜2019年度)
「企業成長のエンジンに関するミクロ実証分析」プロジェクト

大企業と中小企業の格差は、1960年代から70年代初めにかけて、「二重構造」問題として語られていた。その後、高度成長期には、大企業も中小企業も右肩上がりの成長を遂げ、労働市場の逼迫や中小企業の積極的投資などを背景に大企業・中小企業格差は縮小した。しかしながら、プラザ合意以降の円高、企業の国際展開、その後の長期にわたる低成長のために、1990年代以降、再び、大企業・中小企業の賃金や労働生産性格差は広がっている(図1)。

図1:労働生産性の大企業・中小企業格差
図1:労働生産性の大企業・中小企業格差
出典:児玉(2016)。
注:企業活動基本統計調査データから、製造業大企業(300人超)、中小企業(300人以下)の一人当たり付加価値額を算出した。

この論文では、グローバル化の進展が、顧客企業(多くの場合、大企業)とのネットワークを通じて調達元企業(多くの場合、中小企業や下請企業)の企業パフォーマンスにどのような影響を与えるかを検討した。具体的には、顧客企業が海外からの調達を開始した時に、調達元企業の生産性、マークアップ率、雇用、平均賃金、売上高に与えた影響を検証した。グローバル化の直接的効果、つまり、企業がグローバル化した時に自らの企業パフォーマンスに与えた影響については多くの研究があるが、間接的効果、つまり、企業がグローバル化した時に取引先企業のパフォーマンスに与えた影響を検証した論文は多くない。この論文では、傾向スコア差の差分析という手法を使って、主要な顧客企業が輸入を開始した時に、日本の製造業企業のパフォーマンスがどのように変化したかを検討した。図2、3はそれぞれ、「顧客企業が輸入を開始した企業(Treatment group)」と、「顧客企業が輸入を開始した企業と同じような属性を持つ企業であって、顧客企業が輸入をしていない企業(Control group)」の輸入開始前年からその2年後までのマークアップ率、生産性の推移である。図2によると、Treatment groupのマークアップ率は元々Control groupより低いが、顧客企業が輸入を開始すると、Treatment groupのマークアップ率の伸びはControl groupより低く、その差が広がる。同様に、図3からも、Treatment groupの生産性は元々Control groupより低いが、顧客企業が輸入を開始すると、Treatment groupの生産性の伸びはControl groupより低く、その差が広がることが分かる。この結果は、顧客企業が輸入を開始すると、調達元企業に競争促進的な効果をもたらし、調達元企業は雇用維持を図ろうとするため、マークアップ率や生産性が上がりにくいことを示唆する。

更に言えば、この結果は、近年、大企業と中小企業の格差が拡大している理由の1つがグローバル化であることを間接的に示すとも解釈することができる。グローバル化は多くの場合、全体の厚生を上げるというメリットをもたらすが、格差拡大という視点からは、英国や米国のグローバル化に対する懸念は全くの杞憂というわけでもないと考えられ、わが国においても、グローバル化の進展を踏まえた中小企業の競争力確保の為の施策が求められる。

図2:顧客企業が輸入を開始した時の調達元企業のマークアップ率の変化
図2:顧客企業が輸入を開始した時の調達元企業のマークアップ率の変化
注:横軸は時間。t年に顧客企業が輸入を開始した時に、(t-1), t, (t+1), (t+2)年のTreatment group(顧客企業が輸入を開始した企業)と、Control group(顧客企業が輸入を開始した企業と同じような属性を持つ企業であって、顧客企業が輸入をしていない企業)のマークアップ率をプロットした。
図3:顧客企業が輸入を開始した時の調達元企業の生産性(TFP)の変化
図3:顧客企業が輸入を開始した時の調達元企業の生産性(TFP)の変化
注:横軸は時間。t年に顧客企業が輸入を開始した時に、(t-1), t, (t+1), (t+2)年のTreatment group(顧客企業が輸入を開始した企業)と、Control group(顧客企業が輸入を開始した企業と同じような属性を持つ企業であって、顧客企業が輸入をしていない企業)の生産性をプロットした。