ノンテクニカルサマリー

大気汚染と都市規模:都市の規模は過小か?

執筆者 Rainald BORCK (ポツダム大学)/田渕 隆俊 (ファカルティフェロー)
研究プロジェクト 都市システムにおける貿易と労働市場に関する空間経済分析
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

地域経済プログラム (第四期:2016〜2019年度)
「都市システムにおける貿易と労働市場に関する空間経済分析」プロジェクト

過去の多くの都市研究においては、大都市には、交通混雑、長時間通勤、狭小過密住宅、住宅価格高騰などのコストが発生することから、地方分散政策を提唱しがちである。しかしながら、地方分散には別の弊害がある。それは、移動に自動車を必要とするため、国全体でのCO2排出量が増加するからである。また、集合住宅による高密居住の方が国全体のエネルギー消費量を抑えることができるし、通勤移動費用も節減することができる。すなわち、多くの国民が大都市に居住することこそがコンパクトシティによる望ましい都市規模分布なのである。

本論文では、都市集積の経済と大気汚染の存在を仮定して、社会的に最適な都市人口規模分布を求める。

第1は、各都市が同じ規模のときの分析である。NOxのように大気汚染の影響が都市内に限られるときには、都市規模は過大になることを示した。一方、CO2のように大気汚染の影響が都市間さらには地球規模に及ぶときには、都市規模は過小になる可能性を見出した。

第2は、各都市が異なる規模のときの分析である。CO2のように大気汚染の影響が都市の内外に及ぶときには、大都市は過小であり、小都市は過大でなることを示した。図は、アメリカ都市圏のデータを用いてシミュレーションしたものである。青い点は現状の都市人口と順位、赤い点は社会的に最適な都市人口と順位を表している。大都市ほど青い点が左にあることから現状は人口が過小であり、小都市ほど青い点が右にあることから現状は過大であることが確認できる。

図

現在のペースでCO2の排出が継続すると、地球温暖化はますます深刻な環境問題となる。それを食い止める1つの有効な手段は、大都市への集中化政策である。大都市への集中は、集積の経済による経済効率の果実を日本全体で享受できるだけでなく、日本そして世界全体の温暖化を抑制させることができるので、CO2削減の観点からは望ましい都市政策であると考えられる。