ノンテクニカルサマリー

年金改革はいつ始まるのか?

執筆者 北尾 早霧 (ファカルティフェロー)
研究プロジェクト 少子高齢化が進行する中での財政、社会保障政策
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

マクロ経済と少子高齢化プログラム (第四期:2016〜2019年度)
「少子高齢化が進行する中での財政、社会保障政策」プロジェクト

少子高齢化が進行し、高齢者比率(65歳以上人口と20-64歳人口の比率)は2010年の40%弱から2050年には80%を超える水準に倍増する。財政破綻を免れるには年金制度改革が不可避だ。改革の必要性についての認識は共有されるものの、実際に制度改革が始まるタイミングについては大きな不確実性が存在する。本論文においては改革時期の違いによって財政負担、マクロ経済変数などがどのような影響を受けるかを動学的一般均衡モデルを用いて計量分析する。

改革開始から30年の移行期間をかけて所得代替率を20%削減し、年金受給開始年齢を現行の65から68歳まで引き上げる改革を想定する。2020年の開始を1つのシナリオとし、さらに10年ないし20年改革開始が先送りされるケースと比較検討した。改革の先送りは現役世代がより長期にわたり高い年金を受け取ることを意味し、早期に改革がスタートする場合と比較してライフサイクルにおける貯蓄および労働インセンティブは減少し、図1に示されるように総資本および総労働供給は低下する。資本の大幅な減少は労働需要を弱め賃金率は低下する。さらに多額の財政負担が将来世代へ先送りされ、2040年前後には毎年消費税率にして最大8%の財政負担の違いが生じる。避けては通れない改革を早い段階で実行に移せば今後20〜30年の経済活動に大きな恩恵を及ぼす。改革の先送りは経済活動の停滞と賃金の低下、過大な税負担を将来世代に残す結果となる。

図1:改革開始年の違いによるマクロ経済への影響(消費税以外は現行制度維持を1とした場合の比率)
図1:改革開始年の違いによるマクロ経済への影響(消費税以外は現行制度維持を1とした場合の比率)
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