ノンテクニカルサマリー

環境優良車普及促進政策の評価:グレードレベルでの実証分析

執筆者 北野 泰樹 (青山学院大学)
研究プロジェクト 新しい産業政策に関わる基盤的研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

新しい産業政策プログラム (第三期:2011〜2015年度)
「新しい産業政策に関わる基盤的研究」プロジェクト

1.研究の目的

二酸化炭素排出量の約2割を占める自動車市場においては、排出量削減のためのさまざまな政策が導入されている。近年では、ハイブリッド車を含む低燃費の自動車に対する減税・補助金措置に加え、クリーンディーゼル車、電気自動車など、ガソリン以外の燃料を利用する、いわゆる次世代自動車が数多く導入され、次世代自動車の普及促進のための減税、補助金措置が導入されている。効率的な政策の策定のためにも、これら政策が自動車市場に及ぼした影響の評価は欠かせない。

本研究の目的は、2012、13年度における減税・補助金措置の効果を定量的に評価することである。ただし、近年の自動車市場における環境政策の評価を行うには、自動車の各モデル内に複数存在するグレード間の異質性を明示的に考慮に入れる必要がある。減税・補助金の対象は性能に応じて定まるため、同じモデルのグレード間で性能が異なれば、政策の効果は、同じモデルのグレード間で異なることがあるためである。

そこで問題となるのは、自動車市場においては、価格、性能のデータはグレードレベルで利用可能である一方、販売台数はモデルレベルでのみ利用可能であるという点である。自動車市場のように、差別化された財が存在する市場の分析としては、Berry, Levinsohn and Pakes(1995、以降BLP)など、離散選択モデルに基づく需要関数の推定を伴う計量経済分析が代表的なものとして挙げられる。しかし、BLPでは、価格・性能と販売台数について、同じ集計レベルのデータが存在することが前提の分析であるため、グレード間の異質性を考慮した分析に直接適用することはできない。

そこで本研究では、BLPの分析を拡張し、異なる集計レベルのデータを組み合わせた計量経済モデルを構築した。その上で、グレードレベルで異なる効果を持つ政策を評価する。

2.グレード間の異質性

まず、グレード間の異質性がどの程度かデータから明らかとする。SFSjはあるモデルj内のグレードについて、2015年度の燃費基準を満たす割合(SFS+10jSFS+15jはそれぞれ燃費基準+10%、+15%)を示す。SFSj = 1(0)であれば、モデル内のすべてのグレードは燃費基準を満たす(満たさない)一方、0から1の間であれば、1つのモデル内で燃費基準を満たすグレードとそうでないグレードが混在することを意味している。図1は、2013年4月時点で存在するモデルについて、SFSjSFS+10jSFS+15jの分布を示したものである。図の横軸は各割合の取りうる数値の範囲、縦軸は相対頻度を表している。たとえば、0-0.1(0.9-1.0)の範囲に位置するモデルは、ほぼ全てのグレードが燃費基準を満たしていない(満たししている)ことになる。

図から明らかなように、SFSjのケースで0-0.1、0.9-1.0の範囲に存在するモデルはおおよそ2/3であるのに対して、モデル内で燃費基準を満たすものと満たさないものが分かれるモデルも1/3ほど存在する。後者については、1つのモデル内のグレードが燃費基準を満たすか否かに応じて政策の効果が異なることになる。そのため、政策の評価にあたっては、グレードごとに異なる政策の影響が存在することを考慮する必要がある。

グレード間の燃費の違いに加え、マツダのアクセラなど、1つのモデルでガソリン、ハイブリッド、クリーンディーゼルと通常の自動車と次世代自動車が混在するモデルも存在する。この場合も、政策の効果はグレードごとに異なりうるため、やはりグレードレベルでの評価は欠かせない。

図1:モデル内の燃費基準適合車の割合に関する分布
図1:モデル内の燃費基準適合車の割合に関する分布

3.分析結果

本論文の分析結果は、表1にまとめられている。まず、第2列で示されている次世代自動車の販売台数は、モデルレベルの販売台数の情報からは明らかではないので、本研究で提示したモデルからグレードレベルの販売台数を計算した。第3列は政策無の販売台数で、カウンターファクチュアルシミュレーションにより導出した結果である。分析の結果、減税・補助金政策は、クリーンディーゼルなどの次世代自動車を含め、2015年度燃費基準を満たす自動車の販売台数を4-4.5%、次世代自動車(クリーンディーゼル・プラグインハイブリッドのみ)の販売台数を7.7-9%高めたことを示した。

表1:分析結果
(i) 2015年度燃費基準適合車+次世代自動車(千台)
政策有 政策無 変化率(%)
2012年 2415 2310 105 4.56
2013年 2646 2545 102 4.00
(ii) 次世代自動車(千台)
政策有 政策無 変化率(%)
2012年 23 21 2 8.96
2013年 45 42 3 7.65
注:本研究では、次世代自動車はクリーンディーゼル、プラグインハイブリッド車のみを含む。
参考文献
  • Berry, Steven, James Levinsohn, and Ariel Pakes. 1995. "Automobile prices in market equilibrium." Econometrica 63 (4):841–890.