ノンテクニカルサマリー

線分経済における新経済地理学モデルの集積パターン:競技場経済との類似性

執筆者 池田 清宏 (東北大学)/室田一雄 (首都大学東京)/赤松 隆 (東北大学)/高山 雄貴 (金沢大学)
研究プロジェクト 地域経済圏の形成とそのメカニズムに関する理論・実証研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

地域経済プログラム (第三期:2011〜2015年度)
「地域経済圏の形成とそのメカニズムに関する理論・実証研究」プロジェクト

新経済地理学(New Economic Geography, NEG)分野では、経済活動の空間的集積現象を説明できる一般均衡モデルに関する研究が行われている。このモデルには都市間輸送費用減少に伴う人口集積現象(交通基盤整備によるストロー効果)のメカニズムを説明できるという興味深い特徴があることから、これまで、この理論に関する研究が膨大に蓄積されてきた。これらの研究は、その勃興期には、立地点が円周上に等間隔に並ぶ競技場経済(図1 (b))、より現実的な空間構造である線分経済(図1 (c))の下での分析が試みられてきた。しかし、その後、解析上の困難を避けるために、大半の研究が空間の退化した2地域モデル(図1(a))の分析に縮退してしまっていた。

図1:新経済地理学分野で分析対象となっている主な空間構造
図1:新経済地理学分野で分析対象となっている主な空間構造

近年、現実的な政策分析の基盤構築に向けた多地域モデルの分析が、再度、行われるようになっている。そして、Akamatsu et al. (2016) による複数種類のNEGモデルの対比的な分析によって、必ずしもすべてのNEGモデルが現実に観測される多極型の(東京―名古屋―大阪のように離れた位置に大都市が形成される)人口分布を表現できるわけではないことが示されている。つまり、実現象を適切に表現することができないモデルが存在し得ることが明らかにされている。しかし、この研究を含め、殆ど全ての多地域モデルの分析は、競技場経済下で行われている。これは、競技場経済の方がモデル解析が容易であり、かつ立地点の地理的優位性が人口分布に与える影響を排除できる(経済活動の空間的集積メカニズムの影響を純粋に調べることができる)ためである。それゆえ、現実的な空間構造下のモデル特性は、今のところ全く分かっていない。

そこで、本研究では、計算分岐理論に基づく数値解析手法により(既に競技場経済下では多極型の人口分布を表現できることが知られている)NEGモデルを分析し、現実的な空間構造の1つである線分経済において創発する人口集積パターンの特性を調べた。その結果、図2で示すように、輸送費用の減少に伴い、都市間距離が倍化する形で人口集積が進展することが明らかにされた。この結果は、輸送費用の減少が、大都市周辺の地域を衰退させてしまうことを示している。また、この集積進展過程は、競技場経済において確認されている結果(図3)と一致していることから、競技場経済でのモデルの基本特性(多極型の人口分布の形成)は線分経済でも維持されることがわかる。

図2:線分経済モデルで形成される人口集積パターン
図2:線分経済モデルで形成される人口集積パターン
図3:競技場経済モデルで形成される人口集積パターン
図3:競技場経済モデルで形成される人口集積パターン

以上に示した本研究の結果より、モデルによる実現象の説明可能性は、現実的な空間構造下のモデル特性を調べなくても、解析が容易な競技場経済で調べれば確認できることがわかる。さらに、数値解析の結果(図2)から、輸送費用の減少は交易の便利な地域への人口集積を促進することも確認できる。これは、東京を中心とした交通網の整備が、東京一極集中を促進させてしまうことを示唆している。