ノンテクニカルサマリー

産業用ディマンドリスポンスのポテンシャル評価:工場属性を考慮した需給調整契約の分析

執筆者 五十川 大也 (東京大学)
大橋 弘 (ファカルティフェロー)
研究プロジェクト 新しい産業政策に関わる基盤的研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

新しい産業政策プログラム (第三期:2011~2015年度)
「新しい産業政策に関わる基盤的研究」プロジェクト

電気料金をはじめとするエネルギーコストの上昇を抑制するために、より多様で柔軟なエネルギー需給構造の構築に向けた取り組みがわが国では求められている。なかでもネガワット取引などのディマンドリスポンス(電力需要マネジメント)の推進は、わが国にとって重要な取り組みであることが「経済財政運営と改革の基本方針 2015」にも言及されている。こうした新たなディマンドリスポンスを考えるにあたっては、わが国で一般電気事業者によってこれまで提供されてきた取り組みである「需給調整契約」の問題点を明らかにすることが重要であろう。

本稿では、経済産業省の工業統計調査に加えて、東京・関西電力管内における産業需要家の独自データをつなぎ合わせることで、需給調整契約の効果を定量的に評価することを目的にする。需給調整契約は大まかに、(1)需給ひっ迫時に電力会社からの事前通告等によって電力使用量を抑制する契約(随時調整契約)、(2)ピーク電力の削減のために電力会社があらかじめ定めた期間の中で、具体的な日時における調整電力を定める契約(計画調整契約)の2つがある。また小口需要家の需給調整を目的として(3)ピーク電力の削減に応じて電力料金を割り引く契約も広く提供されてきた。本稿の分析では対象期間に発動がなかった随時調整契約を除く、(2)(3)の契約に焦点を合わせて分析を行った。

一般電気事業者によって提供されてきた現行の需給調整契約に関する含意として、以下の2つの点が得られた。第1に、需給調整契約は、需要家に電力料金の割引を通じて、使用電力量およびピーク電力を削減しうるという点である。推定結果から、2012年および2013年夏季に提供された需給調整契約は平均的に電力料金、使用電力量、ピーク電力を押し下げる効果を有したことが明らかになった。第2に、需給調整契約の効果は、需要家の属性によって異なる。推定結果から、労働生産性が大きい工場ほど需給調整契約によるピーク電力の抑制が起こりやすい点が示された。需給調整契約の目的や対象とする需要家によって、望ましいディマンドリスポンスのプログラムを議論する必要がある。

最後に、需給調整契約は使用電力量およびピーク電力を抑制できるポテンシャルがあり、省エネルギーの推進に資すると考えられる。2012年夏季においては数値目標付の節電要請が複数の地域に対してなされ、関西電力管内においても2010年比で10%(生産活動に支障が生じる場合には5%)の節電目標が設定された(注1)。定着節電などにより2012年夏季の関西電力管内ピーク電力実績は2010年比13.3%下落となり目標は達成されたが、今後の需要対策として需給調整契約の更なる積み増しが求められた(需給検証委員会報告書(2012:21))。本稿で得られた結果を産業用電力需要に当てはめて計算すると、需給調整契約の普及によって2012年夏季の関西電力管内におけるピーク電力は2010年比で最大21.6%(注2)(= 13.3% + 8.3%)の削減が潜在的に可能であると推測される。

需給調整契約への加入が産業需要家の電力利用に与える影響
(セレクションを考慮した上での推定結果)
電気料金使用電力量ピーク電力
データ:工業統計調査
(観測数:279,535)
-7.4%-10.9% ***-8.3% ***
表中の***、**、*は、それぞれ推定値が1%、5%、10%水準で有意であることを示す。
脚注
  • ^ 数値目標が付された他の地域は、北海道電力管内(10%)、四国電力管内(5%)、九州電力管内(10%)であった。
  • ^ なお、ここでの推計値は以下の2点から実際の効果の上限値を示している可能性があることに注意が必要である。(1)2012年夏季においては本稿で取り上げたように実際に需給調整契約に加入した需要家が少なからず存在したが、その影響を捨象して推計を行なっていること。(2)本分析で扱ったピーク電力の下落はあくまで個別需要家単位の影響を平均したものであり、電力管内全体のピーク電力の下落とは一致しないこと。