ノンテクニカルサマリー

専業主婦世帯の貧困:その実態と要因

執筆者 周 燕飛 (労働政策研究・研修機構)
研究プロジェクト 少子高齢化における家庭および家庭を取り巻く社会に関する経済分析
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

社会保障・税財政プログラム (第三期:2011~2015年度)
「少子高齢化における家庭および家庭を取り巻く社会に関する経済分析」プロジェクト

かつて、裕福さの象徴と思われていた日本の専業主婦世帯は、近年その中身が大きく変容しつつある。2011年にJILPTが行った「子育て世帯全国調査」を用いた本稿の再集計によれば、日本の専業主婦世帯の12.1%(約50万世帯)は、等価可処分所得が125万円未満の貧困層である。貧困層の専業主婦世帯のほとんどは、食料や衣料等生活必需品の不足はそれほど深刻ではないものの、「子どもの学習塾」など教育投資の負担感が強く、経済的な理由で子どもを通塾させられない家庭が多いことが調査から分かった。

本稿はJILPT調査の個票データを用いて、夫の収入が貧困線以下(低収入)にもかかわらず、妻が専業主婦でいる要因を分析している。回帰分析の結果、貧困専業主婦でいるのは、本人が直面している市場賃金が低く、子どもの年齢が低いため留保賃金(または家庭での時間的価値)が相対的に高いことに起因するものである。一方、保育所の不足などの外部要因も一因となっていることがわかった。

夫が低収入ではない妻に比べて、低収入の夫を持つ妻の就業行動は、自分の市場賃金(学歴、社会経験年数など)により敏感に反応している。また、3歳未満の乳幼児がいることの就業抑制効果は、低収入夫の妻の場合に57.1%ポイントも高い。親による世話的援助は、妻の就業を促進しており、その効果は、低収入夫の妻の場合にとくに顕著である。さらに、保育所待機児童数が200人以上の地域に住むことによる妻の就業抑制効果は、低収入夫の妻の場合は26.9%~33.2%ポイント高いことが分かった。

図表1:母親の就業を決める要因(一部の結果)
低収入夫を持つ妻全体
限界効果限界効果
(主な説明変数)
低収入夫(1 if 夫の収入が貧困線以下) -1.0535**
最終学歴:短大・高専など(基準値 中学校・高校) 0.2658***0.0890***
大学・大学院 0.4955***0.2688***
社会経験年数 0.1033***0.0540***
初職正社員 0.1288**0.0667***
末子の年齢d:6~11歳(基準値 12~17歳) -0.4762***0.0366
3~5歳 -0.17040.0406
0~2歳 -0.4296***-0.0438
親から世話的援助あり 0.1828***-0.0100
居住地の待機児童数e:50人~200人未満(基準値 50人未満) -0.0212-0.0313
200人~400人未満 -0.19750.0491
400人以上 -0.1902*-0.0035
(主な説明変数と低収入夫の交差項)
最終学歴a:短大・高専など ×低収入夫0.2914**
大学・大学院 ×低収入夫0.4404**
社会経験年数 ×低収入夫0.0938**
初職正社員 ×低収入夫0.1177
末子の年齢d:6~11歳 ×低収入夫-0.7182***
3~5歳 ×低収入夫-0.2845
0~2歳 ×低収入夫-0.5711**
親から世話的援助あり ×低収入夫0.2717**
居住地の待機児童数e:50人~200人未満 ×低収入夫0.0010
200人~400人未満 ×低収入夫-0.3318*
400人以上 ×低収入夫-0.2687
注: *** P値<0.01, **P値<0.05, *P値<0.1(両側検定) ✢P値<0.1(片側検定)

調査では、約9割の貧困専業主婦は遅かれ早かれ働きたいと考えている。本当は働きたいのにやむなく専業主婦でいる女性が非常に多いことから、彼女らが働けるようにその就業障壁の除去がいま求められている。低収入家庭の妻の就業行動は、自分の市場賃金、保育所の不足状況および親による世話的援助の有無により敏感に反応していることから、無料職業訓練の提供、専門資格取得への支援、保育所への優先的入所、親との同居または近居を支援する政策は、彼女たちの就労促進につながるであろう。また、貧困専業主婦の約半数は、3歳未満の児童を抱えていることから、保育待機児童がとくに多い0-2歳児向けの保育サービスを拡充させることが必要不可欠と考えられる。さらに、貧困ながらも専業主婦でいる子育て女性は相当数でいるという現状を踏まえ、子どものウェルビーイングを守るという視点から、児童手当の低所得家庭加算など所得支援策の拡充も今後望まれる。