ノンテクニカルサマリー

社長交代と企業パフォーマンス:日米比較分析

執筆者 泉 敦子 (ワシントン大学)
権 赫旭 (ファカルティフェロー)
研究プロジェクト サービス産業に対する経済分析:生産性・経済厚生・政策評価
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業・企業生産性向上プログラム (第三期:2011~2015年度)
「サービス産業に対する経済分析:生産性・経済厚生・政策評価」プロジェクト

本稿は日本とアメリカの上場企業で2000年から2007年に行われた社長強制交代前後3 年間の企業パフォーマンスの変化を比較分析した。

米国企業では社外取締役を大部分として構成された取締役会と、高い業績を求めるマーケットベースの株主が企業のトップマネージメントを監視している 。一方で、日本企業では内部者で構成された取締役会と、メインバンクを中心とした株式の持ち合いにより、企業利潤の最大化が企業統治において優先されていない可能性がある。利潤最大化を目的に企業経営されない場合、投資リターンを求める株主の資産の損失、資源の非効率活用など経済に負の要因をもたらす。

社長交代は企業統治の目的、すなわち企業の経営方針を反映していると考えられる。業績が悪化した際には、日アメリカ企業両方でマネージメントの監視機能は働くと予測される。日本企業の場合、企業に特化したスキルの構築を行っている内部取締役員と債権者でもあるメインバンクどちらも経営が悪化し企業が流動化すると損失を被るため、経営を監視するインセンティブが生じる。そこで業績悪化させた社長の交代により、トップマネージメントのタレントマッチングを向上させ、企業が存続できるよう企業再建を行う。一方でアメリカでは、業績悪化は株主の資産を減らすため、リターンを追求する株主と株主利益保護のためにトップマネージメントを監視する取締役会は、業績悪化をもたらしたCEOを交代させ、業績回復を目指す。このように、業績悪化時には経営監視が両国で機能するものの、その目的は違う。日本の場合、企業存続を目的として社長を交代させるが、アメリカの場合業績向上を目的として社長を交代させるため、社長強制交代後の業績の推移に違いが生じている可能性がある。

分析の結果、社長強制交代前には両国でROAが悪化していた。しかし、社長強制交代後はアメリカ企業でのみROAが改善し、日本企業ではROAの改善は確認されなかった。またアメリカ企業では、社長強制交代後に資産と従業員数が日本企業に比べて大幅に縮小していた。日本企業では、社長強制交代後にリバレッジが低下していた。実証分析の結果から、日本の企業統治が企業パフォーマンス最大化を目的として行われていないことが示された。またこの結果から、現在議論が盛んに行われている社外取締役選任の義務化や外国人投資家の資本市場での台頭は、業績向上を目的とした企業統治へのシフトに貢献すると考えられる。

図1:メディアン control-group-adjusted ROA (バンドマッチング)
上:アメリカ、下:日本

図1:メディアン control-group-adjusted ROA (バンドマッチング)
注:グラフは社長を解雇した企業の メディアン control-group-adjusted ROA を社長強制交代前・後3年間の推移を示したものである。コントロール 企業はバンドマッチングで選択した。社長強制交代を行った企業のROA をコントロール 企業のメディアンで調整した。社長強制交代前後3年の財務データがない企業はサンプルから除外した。ピリオド0に社長は強制交代している。